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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 貧血で手足が痺れ、視界が霞む。
 お千代が最期に見たものは、醜悪な代官が近づくその時だった。
 そして、お千代の瞼は幕を下ろした。
 まだ微かに息があるお千代の柔肌に乱杭歯が突き刺さる。
 女の首筋から血を啜る光景は、げに恐ろしく、弥吉は目を放さずにいられなかった。
 そのまま弥吉は無言のままに座敷を出て、肩を震わせながらクツクツと嗤った。
 裏切りの代償は弥吉の精神を蝕んだ。
 ふらりふらりと歩く背中、弥吉は幽鬼のような蒼白い顔で、何処行く当てもなく歩き続けた。
 弥吉を信じたお千代は死んだ。
 憎しみを胸に抱いたまま……死んだ。
 料亭から宿に戻って来たお蝶は、冷静な顔をしながらも、辺りを世話しなく見回していた。
 昨晩、お蝶たちが助けた娘がいない。
 もとより荷物のなかった娘だ。痕跡が何一つないと言っても、厠に立っているだけかもしれない。
 しかし、胸騒ぎがする。
 すぐにお蝶は番頭を呼んで問い詰めた。すると、娘は天狐組が来てかど勾引[カド]かしたというではないか。銭を握らせて置いたというのに、糸も簡単に裏切られたものだ。
「銭を返せとは言わないよ。けどね、あの娘さんになにかあったら、承知しないよ!」
 番頭に睨みを利かせ、お蝶は急いで宿を出た。
 向かうところは天狐組の他はない。あそこでなければ、他に見当もつかない。
 天の字が書かれた戸を開けると、奥座敷で誰かが煙管を吹かしていた。
 乱れた着物から覗く艶かしい脚。
 肩膝を立てて胡坐を掻いていたのは、お紺だった。
「あんたがここに来て、うちのひとが帰ってこないってことは、みんなやられちまったのかねぇ?」
「さて、どこにお逝きなさったのか、あたいも検討つきやせん」
「この期に及んで惚ける気かい?」
「いえいえ、本当にあたいもどこに逝くのか知らないんで」
「あんたの言葉はさっぱりだよ」
「それは申し訳ありやせん」
 笑顔でぺこりと軽く頭を下げたお蝶にお紺はほくそえんだ。
「本当に惚けた奴だ。でも、そろそろ本性を見せてくれるんだろう?」
「そちらさんは魅せてくれないんですかい?」
「そうさね、ここじゃあんたもやり辛いだろう。裏庭にでも出ようかね」
 紺色の着物を揺らしながら、お紺はすらりと立った。