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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 しかし、瞼の奥で光る眼は野獣のように鋭い。
 お千代は目を逸らさずに立ち向かった。
「ここに痣を付けられた者に限って姿を消しております」
 襟首をずらし、白い首筋についた痣を見せ付けた。
 それを見た代官は腹の底から低い嗤いを発した。
「確かに、儂は知っておるぞ……女郎はここじゃ」
 代官が指さしたのは自らの腹だった。
 なにを意味しているのかお千代は戸惑った。
 下卑た顔で代官は乱杭歯を剥いた。
「生き血を吸うてやった」
「なんで……そんな……」
「女の血は美酒じゃ。女の生き血はこの上ない美酒じゃ」
「……許せない」
 お千代は懐に忍ばせていた匕首に手を伸ばした。
「この人でなし!」
 金切り声をあげてお千代は代官に襲い掛かる。
 刹那に取った代官の動きは恐るべきものだった。
 枯れた躰からは想像も出来ぬ俊敏さ。
 掛台から刀を取り、疾風を靡かせ抜刀した。
 鋭い切っ先がお千代の咽喉に突きつけられた。お千代が腕を伸ばしても、匕首の刃は代官に届かない。
 代官を睨んだままお千代は足を引いた。その時、背中に当たった温かい壁。焦った時にはお千代の躰は何者かに羽交い絞めにされていた。
 腕を捻られ落ちた匕首が畳に突き刺さる。
 お千代は首を曲げた後ろにいる顔を見ようとした。
「……なっ!?」
 信じられない出来事に、お千代は息を呑んだ。
 急に潤んだお千代の瞳に映る男の顔。
「なんで……」
「すまねぇお千代」
 お千代を羽交い絞めにしたのは弥吉だった。
 やはり弥吉は裏切ったのだ。
 目の前の真相を追いすぎて、お千代は弥吉の闇に盲目だった。
 今まで湧いたこともないほどの憎悪が、ふつふつとお千代の腹の底から沸き上がる。
「この、この、人でなし! 殺してやる!」
 我武者羅にお千代は暴れて弥吉を振り払い、素手で代官に飛び掛った。
 鈍く煌いた切っ先がお千代の背を抜けた。
 刀はお千代の躰を衝いた。
 刃を滴る鮮血が柄に溜まっては畳に堕ちる。
 お千代は刃を食いしばり、自ら前へ進み刀を深く躰に突き刺した。
 そして、震える両手で細い代官の首を絞めた。
 爪を喰い込ませて、力いっぱい絞めた。
 なのに代官は下卑た嗤いを浮かべている。
 力は入っていなかった。
 精一杯の力で憎き相手を殺そうとしているのに、お千代の手には力が入っていなかった。