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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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六之章


 今、このふとん部屋にいるのは二人きり。外には見張りがいる。
 弥吉は声を忍ばせてお千代に話しかけた。
「おれの匕首だ。これを懐に忍ばせて置け」
 匕首を渡されたお千代は深く頷いた。
 いつもは料亭で娘を抱く代官だが、今日はお千代を自らの屋敷に呼ぶという。これを逃す機はない。全ての真相を探るため、お千代は意を決した。
 そして、弥吉がそれに同行する。
 しかし、お千代には腑に落ちないことがあった。
「どうして弥吉にわたしを?」
 女郎を逃がそうとした男と、その女郎を外に出すはずがない。
「逃がそうとしたお前をおれの手で届けさせて、苦しませようとしてるんだ。お紺姐さんってのはそういう人だよ。でもよ、これを逆手に取ってやろうぜ」
「そうね」
「おれも一緒にお代官様のお屋敷に行けるんだ。お前になにかあったらすぐに助けてやるからな」
「ありがとう」
 真相は近い。だからお千代は弥吉の言葉を盲目的に信用した。
 代官屋敷までの道のりは、弥吉の他に二人の組の者がついた。お千代と弥吉が不審な行動をしないか見張りだろう。
 日は西の空に傾いている。夏のような暑さも、秋の陽気に戻りつつあった。
 代官屋敷の前まで来ると、弥吉たち玄関の前で待たされることになった。
 何気ないそぶりで弥吉はお千代に耳打ちをする。
「なにかあったらすぐに逃げるんだぞ」
 言葉はお千代の胸に届いたが、周りに悟られないように、無表情のまま女中に連れて行かれた。
 姉と同じ道を歩くお千代。
 廊下を歩くお千佳は首元がむず痒くなって、指先で軽く押さえた。その場所には小さな痣がある。代官の吸うような接吻で付いた痕だ。
 とある障子の前まで来ると、女中は足を止めた。
「こちらに……」
 促されるままにお千代は障子に手を掛けた。
 故郷に残してきた母の顔を浮かぶ。そして、別れたときの姉の顔が浮かんだ。
 障子を開けると、代官が一人で酒を嗜んでいた。
「近う寄れ、酌を頼む」
 枯れた声が耳の中にへばりつく。
 お千代は代官の横には座らず、正面に捉えて正座をした。
「恐れながらお代官様に申し立てが御座います」
「なんじゃ、言うてみい?」
「消えた女郎はどこで御座いましょう?」
 包み隠さない真っ直ぐな質問をした。
「女郎が消えた?」
 枯れた躰に惚けた表情は本当に呆けた老人に見える。