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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 まるで死刑宣告でもされたようにお千佳は狂い、弥吉も頭を抱えて悩みに悩んだ。
 その頃、弥吉はお紺に目を付けられていることに気付いていた。だから迂闊な行動に出れず、二人で逃げる勇気が雲ってしまった。
 そして、弥吉がおずおずしている間に、お千佳は姿を消した。
 お千佳を失った弥吉は人が変わったように、冷淡な性格で女郎たちに接するようになった。それを見ていたお紺は、弥吉から疑念を徐々に消していった。弥吉にとって長い冬の日々がはじまったのだ。
 心を閉ざしてしまった弥吉。
 その心が再び開かれたのは、あの日だった。そう、お千佳の妹のお千代が女郎屋に売られてきた日。
「おれは……おれは……おれのせいなんだ」
 弥吉は拳を震わせ、零れそうになる涙を目を閉じて抑えた。
「おれはお千佳を連れて逃げる勇気がなかった。親分やお紺姐さんが怖かった。お代官様に悪い噂があると知っていても、おれにはなにもできなかったんだ」
 それゆえに弥吉のお千代を助けたいという気持ち強い。
 しかし、お千代はその気持ちを振り払った。
「わたしに構わないで、わたしは逃げない、絶対に姉さんを村に連れて帰るんだ」
「おまえがなんと言おうとおれはおまえを連れ出す」
 逃がさまいと弥吉はお千代の腕を掴み、強引に部屋の外に連れ出した。
 店の表は昼間だというのに客が出入りをしており、裏手は裏手で見張りが立っている。縁側の横にある渡り廊下は天狐組の家に繋がり、縁側のわき道を通ると組の真横に出る。逃げ場はどこにもないように思えた。
 だが、弥吉は迷わずに二階に行こうとしていた。逃げるとしたら、あの場所しかないと目を付けていた場所があるのだ。
 弥吉に引きずられるお千代は必死の抵抗をした。腕を上下に振りながら、廊下に足を踏ん張る。けれど、声をあげるわけにはいかない。声をあげれば騒ぎが大きくなり、弥吉や自分の身が危ない。
 辺りに気を配りながら弥吉は頭を左右に動かした。客の出入りが多い夜だったら、二階に上がる前に誰かと鉢合わせだ。
 誰もいないことを確かめ、弥吉は階段を上がろうとした。だが、嫌がる相手に階段を上らせるのは容易ではない。廊下を引きずるようにうまくはいかなかった。
 それまで気配などしなかったのに、急に背筋を凍らせるぞっとする気配がした。
「どこに行く気だい?」