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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 その奇怪な現象にやくざもんたちは一瞬怯むも、頭に血の昇った躰は抑えられず、構わずお蝶に飛び掛った。
 暗がりの中で風が薙がれた。
 風が吹き出すような音がした。それは首を失った胴が血を噴き上げる音だった。
 今度こそ心の芯から怯んだ男たちは動きを止めた。
 仲間のひとりが首を飛ばされた。その男にお蝶は触れていない。かまいたちか?
 一人の男が叫び声をあげてお蝶に背を向けた。逃げようとでもしたのだろう。
 しかし、その男の末路は悲惨だった。
 男の上半身が傾いた。否、右肩から左腰まで何かが趨[ハシ]り、男の上半身が斜めにずり落ちた。
 地面に落ちた上半身だけの男は、しばらくの間、もがき苦しみ生きていた。その呻き声を聴いたものは、耳に張り付いた恐怖に夜な夜なうなされることだろう。
 誰も逃げるしかないと思い、やくざもんたちは各々の方向に走り出した。
 膝を斬られ勢い余って胴が飛んだ。
 首が転がった。
 手が飛んだ。
 斬られた四肢が宙を舞う。
 噴出す血は雨や泥と混ざり、穢れた沼をつくりだす。
 最後に腰を抜かして動けなかった男が残った。
 地面に尻をつけ、躰の震えが止まらない。
 夢にしても悪すぎる。例え覚めたとしても、瞼の裏に焼きつく残像が恐怖を呼び起こすだろう。
 男は叫ぶ。
「殺してくれ!」
 死んで楽になったほうがましだ。
 昏[クラ]い陰を落とすお蝶の唇が艶やかに微笑んだ。
「外道は殺す価値もないね」
 お蝶の手が動いた刹那、男の片耳が削ぎ落とされた。
「ぎゃぇ!」
 悲鳴をあげた男の股間が温かくなった。男は失禁してしまっていた。
 お蝶はそれを知ってか知らずか嘲笑う。
「お逃げ、逃げなきゃもう片方も落とすよ」
「や、やめ……」
 男は指で泥を掻き分け必死に立ち上がろうともがいた。
 四つん這いになって背を向ける男のケツにお蝶の蹴りが入った。
「さっさとお逃げ、そのまま尻を突き出してる気なら、本当に尻を二つに割るよ」
「ひぇっ!」
 まともな言葉も出せず、男は必死に立ち上がり走り出した。けれど、少し走ったところで足がもつれて転んでしまった。
 顔面から地面に飛び込み、それでも痛みなど忘れて立ち上がり、無我夢中で逃げていった。
 残されたお蝶はばら肉に囲まれながら呟く。
「……さて」
 黒子は一部始終の間、肩を抱いていた娘の眼を手で押さえていた。