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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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三之章


 お千代たちの姿が消えたあと、お蝶は黒子を引き連れ歩き出した。
 傘は差しているが、暗がりの中で行燈は灯していない。
 月も星も出ていない晩。土砂降りの雨が空から落ちてくる。
 時おり奔る稲光が辺りを照らす。
 歩いていたお蝶の足がなぜか止まる。
 ふと横を見ると、細い路地で蹲る娘の影があった。
 派手な振袖がびしょびしょに濡れている。
「どうしたんだい、あんた?」
 お蝶が尋ねると娘は震えた躰で逃げ出そうとした。
「ちょいとお待ちよ」
 お蝶は相手の袖を掴み、そのまま自分の元に抱き寄せた。
 娘の首に青い痣がついていることをお蝶は見逃さなかった。
 激しい雨音の中で黒子は耳をそばだてた。
 お蝶は黒子に娘を預け、通りに出て遠くに目をやった。
 踵で水を跳ね上げ、何者かが束になって走ってくる。その顔には見覚えがあった。天狐組みの奴らだ。
 雨で瞼を開けづらそうにやくざもんたちは辺りを探している。もちろん、黒子が肩を抱いている娘だ。
 やくざの一人が暗闇に潜むお蝶に気付いた。
「おい、年頃の娘を見なかったか?」
「見た」
 と、お蝶は顔を横に向けて娘を示した。
 娘は引き渡されると顔をハッとさせ、寒さと恐怖で身を震えさせた。
 やくざもんが娘に近づこうとしたとき、それを遮るように長い腕が伸びた。
「娘さんをあんたらに渡す気はありやせんよ」
「なんだと?」
 眼つきの悪い男は下から顎を突き出し睨め付けた。
 いつの間にかやくざもんたちはお蝶を取り囲んでいた。彼らにはいつかの礼もあるだろう。たっぷりとお蝶を可愛がろうと思っているに違いない。
 しかし、お蝶に臆する様子はまったくない。
「娘さんが欲しければ、あたいを犯すなり殺すなりなすってからにしてもらいましょうか」
「おう、言われなくても姦[マワ]してやらあ」
「威勢だけは良いこって。今日は観客もおりやせんし、都合の良いことに暗がり。こちらも本気でやらせてもらいやすよ?」
「調子に乗りやがって、やっちまえ!」
 暗がりで鈍く匕首が光った。
 大の男が束になってお蝶に襲い掛かる。
 朱塗りの傘が宙に投げられた。
 お蝶が舞う。
 それは乱舞だった。
「グギョェッ……」
 蛙の咽元を潰したような奇声がした。
 そして、お蝶から一番離れていた男が地面に倒れた。