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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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「ならお代官様には近づくなよ」
「お代官様になにかあるのかい?」
「いや……別に……」
 弥吉は嘘のつけない正直者だった。
「代官がなにか関係あるんでしょ!」
「……みんなお代官様がなにか知ってるって噂してる。けどよ、相手はお代官様だぜ、どうこうできる相手じゃねぇんだ」
「意気地なし!」
「そういう問題じゃねぇだろ、畜生ッ。いいか、お代官様には近づくなよ。あとお紺姐さんにも気を付けろ、勘が馬鹿にいいんだ。無理すんなよ、あばよ」
 早口でまくし立てた弥吉は、お千代になにか言われる前に部屋を出て行った。
 部屋に残されたお千代は辺りを見回した。
 一見してただのふとん部屋だ。
 しかし、もしかしたら姉がこの部屋を使っていたことがあったかもしれない。そんな淡い気持ちもお千代の心にはあった。
 そして、自分に味方がいたことが、なによりも嬉しかった。

 石灯籠が灯っているとはいえ、庭は暗がりで隅々まで見通せなかった。その闇に身を乗り出して目を凝らすお蝶。
「桜の下には屍体が埋まっているとよく言ったもんございやす」
 廊下からお座敷に戻って、正座をしたお蝶はポンと手を叩いた。
「こりゃ失礼、それをいうなら柳の下でごぜえやした」
 女郎屋の元締め――お紺の紹介でお蝶たちは座敷に呼ばれた。
 相手は代官のお付だ。当の代官は隣の座敷で宴会を催しているらしい。お付の侍は酔わない程度に酒を嗜み、大事とあればすぐに駆けつけるように待機している。
 この侍たちに芸を認められれば、代官に推挙してもらい、後日お代官のお座敷に呼んでもらえるということだ。
 黒子はまだ葛籠から人形を出さずに、じっと正座をして待機している。
 お蝶は三味線の音を合わせながら侍に尋ねる。
「お武家様方は、身の毛もよだつような怖い話はお好きでごぜえやすか?」
「それは良い、お代官様は奇譚がお好きでござったな?」
 一人の侍はそう言い、隣の侍と顔を見合わせた。
「そうだ、あの御方は恐ろしい話が好きだと言っておられた」
 お蝶はそれを聞いて、艶やかに笑って頷いた。
「それはよろしいこって。外の桜の木を見ておりやして、ひとつ面白い話を思い出しやした。今は秋、桜の花も咲いておりやせんが、今からお話するのは怪談とは無縁と思えやす、麗らかな春の話でございやす」
 そして、お蝶は唄い出した。