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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 弥吉は肩を落として壁にもたれ掛かった。
「仕方ねぇだろ、百姓の倅で脳もねえ。そんなおれがまっとうな仕事に就けるわけがねぇだろ」
「だったら村に帰ってくればよかったのに……」
「一度飛び出した家に帰れるかよ。親父には勘当だって言われたんだしよ」
 沈黙が降りた。
 再開は必ずしも活気付く華やかなものではなく、長い時は人を変えてしまった。
 俯いていた弥吉が顔を上げた。
「おい、おれがここを出してやるから逃げろよ」
 お千代が返事を返すまでに時間があった。
「――足抜けしろっていうの? そんなことしないよ、するもんか」
「だってよ、ここの元締め、さっきのお紺姐さんは、人を自分と同じ人とは思ってねぇぜ。無理をさせられて何人が過労死したことか、それに……」
「それに?」
「なんでもねぇよ」
「ここの女郎屋、悪い噂があるんでしょ?」
「おれはなんにも知らね」
 急に心を閉ざして、部屋を出て行こうとした弥吉。その腕をお千代が掴んだ。
「本当は知ってるんでしょ」
 弥吉は顔を前に向けたままお千代を見ようとしない。
 お千代は強引に弥吉の腕を引っ張り、向かい合って目と目を合わせた。
「わたしの目をちゃんと見て、嘘つかないで!」
「おれはうそなんて……」
「わたしの姉さんのこと、なにか知ってるなら教えて頂戴」
「……知らない……知らないって言ってるだろ!」
 弥吉は腕を振り払い、お千代の躰を突き飛ばした。
 床に崩れるように尻を付いたお千代の目には、必死に堪える涙が揺れていた。
「わたしは姉さんのことが知りたくて、自分でここに来ると決めたんだ!」
 心の叫びをぶつけられた弥吉は拳を握って震えていた。
「おれだって……おれだって……。あいつは突然消えちまったんだ」
「やっぱりなにか知ってるのね!」
「あいつはある日突然、この女郎屋から姿を消しちまったんだ。元締めに聞いたら足抜けしたって言われた。親分に聞いたら、おれは知らないからお紺に聞けって言われた」
 それは約一年ほど前のこと、姿を消した女郎の中にお千佳いう名の女郎がいた。それがお千代の姉だった。
 睨むような慈しむような、なんともいえない表情で弥吉はお千代を見据えた。
「おまえは早くここを出て行けよ」
「嫌だ」
「お千佳はおれが探す。お前までいなくなって欲しくねえ」
「嫌だ、わたしは覚悟を決めてここに来たんだ」