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凍頂烏龍より高嶺じゃないよ

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 僕は、軽く嫉妬を覚えた。竹ちゃんの中に僕じゃない人の影が見えたことが気に入らなかったのかもしれない。
「なんだ、冷めてんのか。あったかいほうがおいしいんだけどな」
「よく淹れてくれるんだね、気ぃあんじゃないの?」
 僕は笑いながら変化球を投げ込む。男だから笑い話ですむのだ。僕は竹ちゃんが好きだ。憧れなのか、恋愛なのかはともかく。どっちにしろ大切な存在であることにかわりはなかった。
「そう、思うか?」
 煮え切らない反応。判定的にはボールか。臭いところをつきすぎたらしい。もう少し中寄りのコースを狙うべきだったかな?
「竹ちゃんはどうなのさ?」
「俺か? 俺は」
 呼称を気にしなかった時点で竹ちゃんの中での川島さんという人間が少なくとも世間話よりは重い存在であることがわかった。ならこっちにも考えがあるのだ。竹ちゃんは僕の幼馴染で、僕のヒーローだ。僕が竹ちゃんの隣にいないといけない。僕が唯一竹ちゃんを助ける存在でありたいと願うのだから。
「多分、好きなんだと思う」
 幕が下りる。第二幕までしばしご歓談を。僕は竹ちゃんのコップをひったくると飲み干した。あっけに取られた竹ちゃんがこちらを恨めしそうに見つめた。
「おい、なにすんだよ?」
「ん? 僕も竹ちゃんと同じように飲んでみたくなっただけだよ」
「変なやつ?」
「そう?」
「ああ」
 竹ちゃんは笑いながら、照れ笑いをしながら僕を見ていた。ああ、こんな下俗なところまで堕ちてきちゃって。僕は苦笑しながら、竹ちゃんのために一肌脱ぐことにした。まずは、とパソコンに向かった僕は川島さんの資料を再びチェックしなおした。
<改ページ>
 翌日、生徒会は相も変わらず忙しかった。僕もいつも通り仕事をこなしていった。
「おい、佐伯。これお願い」
「はい、会長。あんまり無理しないでくださいね」
 本心から僕はにっこりと笑う。
「それと、川島」
「はい?」
 僕の言葉がきっかけになったのか、それともはじめからそうするつもりだったのか、竹ちゃんは川島さんを呼び出した。職務中にもかかわらず竹ちゃんがそんな行動に出るなんて珍しいことだ。
「ちょっと今時間あるか?」
「はい、仕事に関しては大丈夫ですけど」
「じゃ、ちょっと職員室まで付き合ってくれ」
「いいですよ」
 二人して出て行く。竹ちゃんを喩えるなら生徒会のキーホルダーだ。ホルダーがいなければそれぞれのパーツは簡単に散らばる。当然生徒会も散らばった。
「なぁ、やっぱ会長って川島のこと好きなのかな?」
「じゃねぇの? 川島も満更じゃなさそうだし」
「でも、川島ってあんまいい噂聞かねぇよな」
「ああ、男食いってやつか?」
 けらけら笑う男子。嫉妬かそれとも何なのか、とりあえず男どもにとってはあんまり大切なことじゃなかったようだ。
「理沙はそんな子じゃないよ」
 女子の一人が噛み付く。川島理沙の友達その一だ。その二も黙っていない。
「りっちゃんは、綺麗だからもてるだけ。それを振られた男子がいいように言ってるだけじゃん」
 色事に関してはいつの時代も男は鈍いのか頭が上がらなくなるのか、なかなか女に勝てない。たったその二言で男子どもは口をつぐんでしまった。
「ねぇ、佐伯君もそう思うでしょ」
 矛先は急に僕に向いた。もちろん答える言葉は一つだがあえて我かんせずを装った。
「何の話?」
「会長とりっさの話」
「二人がどうしたの?」
「だから、別にりっさが会長をとって食おうとしてないよねって話」
 現実の女というものは恐ろしいと時々思う。少しは恥じらいをもて。
「まぁ、竹人のことはともかく、僕は川島さんとはあんまり親しくないからわからないけど、竹人は真面目だから」
「ああ、何となくわかる。ほんと高校に来てまで会長が服来て歩いてますってな人に会うとは思わなかった」
 その言葉に皆が大爆笑。竹ちゃんのイメージとはみんなの中ではそういうものなのだろう。だけど竹ちゃんは本当はそんなキャラクターじゃない。もともとは参謀タイプなのだ。責任を取る立場よりはいろいろ考える側に回ることが好きなんだ。盛り上げたりだのなんだのは他のやつに回したいと思っているに違いない。だけど周りにはこんなのばっかりだ。適当な人材なんかいない。だから僕がなる。そうじゃないといけないんだ。
<改ページ>
「とりあえず仕事しようよ、みんなさ」
 僕の言葉に時が止まる。僕が急にそんなことを言い出したことに面食らったらしい。今までの僕ならここで何も言わずに、ただ黙々と仕事をこなしていただろう。でも今日からは違う。僕に竹ちゃんが必要であるように、竹ちゃんに必要なのが僕でないといけないから。僕はそう思うことにした。
「それぞれ会長から回された案件、今日中に終わらせてしまいましょうよ。どうせ竹人はまた仕事もらってくるんだから」
 至極全うな意見。ここにいる連中は皆そうだ。自分から何かをしようと思って竹ちゃんの側にいるんじゃない。その能力があるからいるだけなのだ。指示されなければしようなんて思っちゃいない。だからこそもっている力は使ってもらわなければ困るのだ。
「先輩に指図ですか? 佐伯君」
 いやみったらしい一言も、これで解決する。
「面倒ならやらなくていいですよ。僕がやりますから。最近思ってたんですよ。この生徒会って真面目に働いてるのって竹ちゃんだけなんだなぁって。次点で川島さんも入れてもかまいませんけど。後は言われなきゃ何もしない駄目人間ばかりじゃないですか。だったら、僕一人でがむしゃらに働いた方が効率がいいんじゃないかと思うんですよ、違いますかね先輩」
「あのなぁ、喧嘩、売ってる?」
「そもそも会長が一番働いてるって時点で組織としていろいろ間違ってるんですよ。違いますね、組織が会長の仕事だけに専念できっるように働かなければいけないのに、働かないのがいけないんだと思います。だから僕は今日から竹人の片腕になるように働きます。もしその手伝いにならないんだったら、さっさと消えてくれると助かるんですけど。マジで」
 珍しく饒舌になってしまった。空気も悪くなった。そこへ先ほど出て行った二人が帰ってくる。と思ったら帰ってきたのは川島さん一人だった。
「ごめん、仕事任せていい? あたし今日は帰る」
「いいよ、じゃあね」
 誰に言ったかはわからないが僕はそう応えると、川島さんはそのままスクールバッグを持って帰ってしまった。これ幸いと明らかに不穏な空気から逃げるべく、友人一、二も川島の名を呼びながら帰っていった。残されたのは男ども。物語ならリンチが始まってもおかしくないが、幸いここは生徒会。そんな愚行?を犯す人間はそうそういない。
「俺らも帰るか、頑張ってくれるんだろうな、佐伯?」
「ええ、別に残ってまともに仕事をしてくれるなら助かりますけど、今日中に今までのノルマを終わらせることなんてどうせ出来ないでしょ? あなたがたでは」