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凍頂烏龍より高嶺じゃないよ

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 事実こいつらは仕事が回ってこないとやらないばかりか、基本的には仕事はサボりがちだ。しょうがないという言い分もわからないではない。学生にとって生徒会というのはオプションであり、そのオプションをこなすことが目標であって、そこで実績をあげる必要はどこにもないのだから。だから、家に持ち帰ってまで抱えている問題をこなすなんてやつはいるはずも無い。
「ふーん、つか、お前らガチなの? 結構引くんですけど?」
「何でその話題が出るのかわからないけど、憧れてるだけだよ。僕にとって竹人は必要な存在だからね。その竹人のやることを邪魔する人間は、竹人の側にいて欲しくないんだ」
 僕の言葉を聴きながらしばらく考えた後、彼らのうちの一人が侮蔑の言葉を吐いて去った。結局広い教室にパソコン全稼動で僕が一人ぽつんと、椅子に座っていた。
<改ページ>
「川島と、なんかあったんだろうな」
 振ったのか、振られたのか。どっちでもいい。結果として残ったのは竹ちゃんの側には誰も残らなかったという事実。それだけが大事だった。そのスペースは僕のものだった。
 一つずつ生徒会に持ち込まれる案件を解決していく。難しいことじゃない。ちょっとだけ面倒なだけだ。それが出来ないのが人間で、それが出来る少しだけ優秀な人間。こういう人間ばかりなら世界も平和だろうに。
 夕方になればこの部屋は赤く染まる。太陽は見えなくともその光は机に影をもたらし、半ば冷たくなる風を校内に運び込んでいた。世界は周り、時間は動く。仕事も片付く。何一つとして問題なく進むこの一刻一刻が僕には至高のものと思えた。究極ではない。そこには竹ちゃんの姿が必要だったから。
 日が暮れる。竹ちゃんは帰ってこない。何となく想像はついた。竹ちゃんは振られたのだ。別段川島に怒りはわかなかった。嫉妬という想いが無いわけではない。でもそれ以上に僕は竹ちゃんが好きだった。川島が好きな竹ちゃんも好きだった。そこに何があるわけでもない。僕たち人間の間にはそれぞれ小さな溝があってみんなそれを必死で埋めようとするけれども、なかなか上手くいかない。それが他人を理解するということだ。でもその溝を無視することは出来る。きっと今がその状態なんだろうと、僕は思った。
「まだ、いたのか?」
「うん、仕事残ってたからね」
「嘘付け、どうせ押し付けられたんだろ? お前気が弱いから」
 全て受け入れようと思えば、そんな溝は気にしなくていい。わかった振りをしていれば、その溝は無いも同じだ。
「そんなことないよ」
「昔っからそうだったよな、ホント損な役回りばっか受けてさ」
 空元気だった。その理由も聞く必要はなかった。無視していいことだから。
「でも、お前ってほんと不思議だよな」
「何が?」
「だってさ、何で俺がいて欲しいと思うときにそこにいるんだろうな」
「さぁ?」
 答えははぐらかす。向こうも全てを無視し始めてる。こっちの気持ちなんてお構いなしで、そんなに無防備な姿で、今抱きしめたら折れてしまいそうな身体で。
 人は弱い。だから納得しなければそれでもいいと思うときがある。そんな時僕はどうすればいいのかわからない。でも必ずしも納得しなければいけないことばかりがこの世の中にあるとは思わない。心の機微ならなおさらだ。
「竹ちゃん、帰ろっか」
「そうだな」
 何から話す気だったのか、そんなことはどうでもよかった。今この究極の空間の中で僕と竹ちゃんは互いにその存在を認識しながら心の中を無視しているから。いるだけでいい。それだけだった。
 帰りに自販機に寄った。産鶏ぃの烏龍茶を買う。奮発してペットボトルサイズを竹ちゃんにも奢ってやった。
「この会社名、正直どうかと思う」
「烏龍茶なのに鶏はなぁ」
 おとなしく奢られる竹ちゃんは、いつもより素直で僕にとって少し嬉しく、その顔を引き出したのが川島だという嫉妬がまたあった。
「やっぱり、あいつの美味しかったな」
 軽く相槌打つ。これは別れの儀式、人に思いを預けることで人は少しずつそのことから解き放たれていく。
「もう淹れてくれねぇかな?」
「これが代わりじゃ駄目かな、安いけど」
 自分の分に軽く口付けて、中の液体を通して竹ちゃんの顔を見た。
「これ、か」
「そうそう、これくらいが竹ちゃんには分相応というものだよ」
「はぁ?」
 少しだけ笑み。それでいい。ヒーローは最後に勝つもんだ。涙は禁物。僕は一気に自分の烏龍茶を飲み干す。始まりか終わりか、難しいものだ、人っていうものは。