まおー転生
戦闘機が近づくにつれ、〈球体〉の大きさが測り知れる。その大きさは、戦闘機を指先程度とするならば、〈球体〉はバレーボールほど。あんなモノが空に浮かんでいるなど、到底信じられない巨大さであった。
〈球体〉の正面にはあの凄まじい攻撃を放つ発射装置がある。
戦闘機は迂回しながら〈球体〉に近づき、ミサイルを撃ち込んだ。
爆発音と共に〈球体〉から煙が上がった。だが、それはミサイルの硝煙に過ぎず、〈球体〉はまったくの無傷に見えた。
「でしょうねぇん」
とベルが呟いた。
アトランティス全体を揺らすほどの威力を持つ兵器を装備した飛行体が、ミサイルごときで落とせるわけがない。
空を駆ける戦闘機からの一斉攻撃がはじまった。
音は画面からは聞こえない。
機関砲から乱れ撃ちされる銃弾。
夜風に流れる煙。
〈球体〉は黙したまま。
画面を通して観た映像は音もなく淡泊で、まるでどこか遠いところで行われている?嘘?のようであった。
本当に今、戦いは行われているのだろうか?
あの画面の向こうに人はいるのだろうか?
戦闘機に人は乗っているのだろうか?
画面からキーンという耳鳴りのような音がした。
「音……頭が痛い」
と夏希が呟いた次の瞬間だった。
画面が眼を開けられないほどの輝きを放った。
それはなんの前触れもなかった。
画面が正常に戻ったとき、映し出された映像は次々と戦闘機が墜落する場面であった。それはまるで急にエンジンが停止いたかのような、煙も上げず爆発もせず、ただ海面に引きずり込まれるように墜ちていく。
舞桜が眉をひそめる。
「なにが起きた?」
誰も答える者はいない。
戦闘機が墜ちた。それだけが事実だった。
夏希が叫ぶ。
「鷹山くんは!」
次々と夏希はここにいた全員の顔を一人一人見ていった。
最後に見つめられたベルが口をゆっくりと開けた。
「あのヘリはレーダーでは捉えられないし、通信がない限りこちらから探し出すことは不可能よ」
舞桜はスタンドマイクに向かって戦闘本部に命令を出す。
「すぐに救助艇を向かわせろ。乗組員の救出及び戦闘機のサルベージ、生存者の確認を急げ。ただし、危険と判断したらすぐにその場を退却することを命じる」
それは生存者がいたとしても、危険と判断したら見捨てろということを意味していた。
作品名:まおー転生 作家名:秋月あきら(秋月瑛)