まおー転生
すかさず夏希が、
「ヤダし! なに提案とか言ってるの! あたしのこと助ける気があるの!?」
「あるに決まっているだろう。死人と結婚する気など毛頭ないぞ?」
「もうわけわかんない!」
わけわかんないのは犯人も同じだ。
「てめぇら黙れよ! ちょっとでいいから俺に考える時間をくれよ!」
「三分やろう」
完全に主導権は舞桜様。
コンビニ周りにはすでに何台ものパトカーが到着し、カラーテープによって立ち入り制限がされていた。現場よりも大変なのは署にある対策本部だろう。だって外から見たら舞桜も人質のようなものだ。
そんなことなどつゆ知らず。知っていてもお構いなしだろうが、舞桜は三分が経ったことを告げる。
「時間だ、交渉を再開しよう」
「もうお前となんか交渉しねぇーよ、俺の要求はほかの奴と交渉することだよ!」
「それはできん」
「お前に断る権利なんかねぇーんだよ。こっちには人質がいるんだぞ!」
「だが断る」
休憩タイム入れても結局同じ。
夏希はため息を吐いた。
「もういいよ、誰でもいいからあたしのこと助けてよ。お腹空いたし、疲れたし、眠いし(あ、そう言えばピンクさんどうしたんだろ。今もいるのかな、ケガとか平気だったのかな?)」
いろいろ考えているうちに夏希はあることを思い立った。
「(なんか自力で逃げられるような気がしてきた。犯人さんも舞桜ちゃんにばっかり気を取られてるみたいだし。せーっので行こう、せーっの!)」
ガブッ!
夏希は自分の首に回されていた犯人の腕を噛んだ。
「イタッ!」
犯人がひるんだところで一気に逃げ出した!
が、すぐに犯人の手が伸びる!
「待て殺すぞ!」
テンパっている犯人は包丁を持っている手を夏希に伸ばした。
「うっ!」
犯人の小さなうめき声。
包丁が音とを立てて床に落ちた。
犯人は腹を押さえて少しよろめいたかと思うと、泡を口から吐いて気絶してしまった。
舞桜の一言。
「ふむ、食中毒だな」
それにしては突然過ぎるし気を失うなんて?
夏希はわかっていた。
「(たぶんピンクさんが助けてくれたんだ)ありがとうございます」
とても小さな声で夏希は囁いた。
夏希の耳元で微かな声が聞こえるような気がする。
「舞桜様は人の心を理解しようとしていないわけではない。人の心が理解できない不自由な人なのだ。それをわかってあげて欲しい」
作品名:まおー転生 作家名:秋月あきら(秋月瑛)