まおー転生
「この世を動かす力は希望にほかならない。君に足らない物は勇気だ。起こってもいない未来に悩み、君は今を無駄にしている。将来の失敗を恐れることは大変に馬鹿げたことだとは思わんかね? なぜならまだそれは起きてもいない出来事なのだよ。もしも本当に勇気のある人間ならば、どんな苦境にありながらも、やるべき行動を取ることができる」
「うるさいな! 俺はもう駄目なんだよ!」
「失敗の苦痛を恐れるあまり、失敗する前から苦痛を味わう。無用の苦痛を味わい、無用の浪費ばかり増すのならば、早々の立ち向かえばよいものを。それでは巡って来たチャンスも掴めぬというもの」
「俺にチャンスなんかもうないんだよ!」
「チャンスとはいつ巡ってくるともわからない。だからこそ、常日頃からの精進が必用なのだ。失敗することばかり考えて、君はなぜ成功することを考えないのか私には理解できんね。どちらもまだ起きてない未来なのだから、同じことだろうに」
「お前だって言ってんじゃないか、チャンスはいつ巡ってくるかわかんないって! 俺はもう耐えられないんだよ、そういうのに。どうせ努力なんて無駄なんだよ、芽が出るかどうかなんて運で決まるんだよどうせ」
「うむ、たしかにその手の職種でデビューできるかどうかは、運が七割、努力が三割と言ったところだろう。運は偶然に巡ってくる奇跡の要素が強いだろう。しかし、運というのは自分でも引き寄せることができるのだよ?」
ついに舞桜がちゃぶ台から立ち上がった。
澄み渡る青空の下で両手をいっぱいに広げ、ゆっくりと体を回転しはじめた。
「世界は今日も廻っている。私を中心に、夏希を中心に、そして君を中心に。世界は一人一人の心を映す鏡だ。見る者によって、心の持ちようによって、世界はいくらでも変貌する。しかし、世界は一人のために存在するものではない。人々は個であり全であり、見えない糸で結ばれている。自分が他人にしたことはいつか巡り巡って戻ってくるもの。運も同じ、運とは廻るもの、人から人へ廻すもの。すなわち、運を引き寄せる要素とは徳、中でも人徳が大事なのだよ!」
発言がまるで中二病患者のようだ。
話を聞き終えた男は急に肩を落とした。
「やっぱ死のう」
うわっなんか舞桜の話逆効果!
ふわっと落ちそうな男を見て、夏希は慌てて駆け寄ってフェンス越しに相手の腕を掴んだ。
「ダメ死んじゃ!」
作品名:まおー転生 作家名:秋月あきら(秋月瑛)