まおー転生
夏希の頭に声が響いた。
「(なに今の声?)」
再び夏希は見えない壁に手を触れた。
《来たら殺すわよ!》
また声が響いた。
「誰なの!?」
夏希の問いに雪弥は眉を寄せた。
「何かを感じるのかい?」
「声が聞こえたの」
「声?(俺には聞こえないのか)」
もう一度、夏希は見えない壁に触れた。
《来ないでって言ってるでしょ!》
「魅神さん!?」
それは菊乃の声だった。
なぜ菊乃の声が聞こえるのか?
この先に何がいる……怪物?
夏希は見えない壁に手を押し込めた。反発される。それでも負けずと手を入れ、ねじ込むように体を入れた。
見えない壁を抜けた途端、余った力の反動で夏希は床に倒れたしまった。
「いった〜い」
床に両手を付いて立ち上がろうとした瞬間、
「イタッ!」
激痛が足首に走った。
「右足ひねっちゃった」
それでも夏希はどうにか立ち上がって、片足を引きずり歩いた。
屋上に続くドアを抜けた途端、凍える強風とむせ返るような異臭に襲われた。
《来たら本当に殺すわよ!》
「どこなの魅神さん?」
《お願いだから……来ないで……》
震える声。まるでそれは泣いているようだった。
学園の屋上は敷地面積が非常に広い。運動スペースや緑化スペースなど、さまざまなスペースが設けられている。まるでそこが屋上であることを忘れてしまいそうな場所だ。
《来ないで……来ないで……見られたくない……》
夏希の頭に響く声。言葉の意味とは裏腹に、まるでそれは助けを求めるかの声だった。だからこそ夏希は探さなければ行けないと思った。
菊乃がこの屋上にいる。そして、おそらく舞桜も――。
異臭を強くなる。まるで物が腐ったような臭い。肌を刺す風も強くなっていた。
夏希は足下に目をやった。何か落ちている。
拾い上げたそれは狐面だった。
菊乃がいつもつけていたそれ。触れられることさえ拒み、決して外そうとしなかった面。顔を隠し続けた偽物の顔。
しかも、その面は真っ二つに割れていた。
公園スペースにたどり着いた。
この異臭のせいか、眼まで開けられなくなってきた。
それでも夏希が眼を開き辺りを見回すと、噴水がなんと汚泥を噴き上げていた。
よく見ると足下の芝も黒く溶けているようだった。
「舞桜ちゃん!」
夏希は目に飛び込んで舞桜に駆け寄った。
作品名:まおー転生 作家名:秋月あきら(秋月瑛)