まおー転生
それはまるで黒狗のような形をした化け物。
三つ首を備えたキメラ。
嗚呼、まさにギリシア神話に描かれる地獄の番犬ケルベロス。
でも首が一本チワワだけどなッ!
何の手違いか一本だけ混ざっちゃったチワワは、クリクリの瞳を潤ませながらプルプル震えている。それだけ見たら、かわいい……けど、全体像を見るとグロだけどね♪
まだ三本とも同じ狗のほうがマシだ。
筋骨隆々の黒いボディと、いかにも凶暴そうなフェイス。そこにチワワが混ざっていたら、逆に異様で気持ち悪い。
でも、そんな異形が菊乃はお気に召したようで。
「素敵だわ、うふふ。毛と肉を引き剥がして片方の目玉を抉ったらもっと素敵なのに」
ヤル気か? 実行する気か? 殺っちゃう気かっ!
菊乃の殺気を感じたのかチワワはプルプルしている。
くぅ〜ん。
可愛らしい声で鳴きやがる。でも首から下がミスマッチだけどな!
だが、菊乃は戦闘の意思を示そうとしなかった。
「わたしは視察の続きがあるから、せいぜい頑張ることね天道さん」
……押し付けられた!?
音もなく立ち去ってしまった菊乃。今回出番これだけ!?
舞桜は、
「ふむ」
とだけ呟いた。
こんな悠長に構えている場合ではない。なぜってすでに召喚部員は病院送りにされちゃっているのだ。
屋上に残っているのはケルちゃん一匹と、舞桜と夏希だけ。
さて、先にケルちゃんの餌食になるのはどっちかな♪
ケルちゃんは喉を鳴らしていつでも喉を噛み切り準備万端である。一方の舞桜は夏希を背中に隠し、腕組みをしながら悠長に考え事していた。
「まずは犬小屋の建設とトイレのしつけが必要だな。エサはやはりドックフードか……」
飼う気ですか?
うん、食費がいっぱい掛かりそうだね♪
じゃないだろーっ!
モンスターを仲間にしたり、悪魔を使役しちゃたりするゲームとかあるけど、普通は化け物の類を飼わんだろ。
そう言ったゲームの場合、モンスターを弱らせてみたり、トークでどうにかするのだが、話し合いは無理そうだ。
だってケルちゃんヤル気満々!
鋭い牙の覗く口から涎を垂らしながらケルベロスが飛びかかってきた。
舞桜は白鞘から刀を抜いた。
「夏希、私より前に出るな。魔王とザコモンスターの格の違いを見せてやろう!」
地面を蹴り上げて舞桜が刀を振るう。
狙うはもちろんチワワ!
作品名:まおー転生 作家名:秋月あきら(秋月瑛)