まおー転生
一方、ハルキはいつの間にか緊縛されて、なんだかSMで見たことありそうな縛り方で宙吊りにされていた。
「おい、オレ様のことも助けろ!」
だが無視!
舞桜の視界にハルキは入っていない。入っていたとしても、認識していない。
「おい、オレ様のこと助けろって聞いてんのかよ!」
だがシカト!
ついに触手が舞桜に襲いかかる。
舞桜も地面を蹴り上げた。
刹那、舞桜の瞳に紅い炎を飛び込んできた。
なにが起きたのか数秒を要した。
突如、触手が紅蓮の炎に包まれ燃え上がったのだ。
夏希は『あっ!』と小さく声をあげた。
一瞬、ピンクシャドウが見えたような気がしたのだ。
「あっちぃ〜!」
触手から逃げ延びたハルキが尻に火をつけて走っていく。
突然の出来事にも舞桜は冷静に腕組みをして結論を出した。
「うむ、自然の猛威だな。雨露がレンズ代わりになって火災が起こることなど多々ある」
それにしては一気に燃えすぎじゃ?
火の手が早すぎて飛び火しちゃってるようにも見えますが?
気付けば辺り一面火の海にも見えますが?
あれ……いつの間にか火に囲まれて逃げ場失ってない?
……みたいな。
どこからともなくボソッと声が聞こえた。
「……あ、やりすぎた」
燃えさかる音に掻き消され、さらにパニくっている夏希の耳にその呟きは届かなかった。
「天道さん! どうしよう、逃げられないよ!」
「チャンスはいつ巡ってくるかわからない。まずは冷静になることが大切だ。そうすればチャンスを逃さずに済むものなのだよ」
「そんな悠長な! あの、え〜っと、あの男子どこ行ったの!」
「ハルキならとっくに逃げたのではないか? 実に賢明な判断だ」
炎の壁が舞桜たちに迫ってくる。
気配はしなかった。けれど、その影はいつの間にか夏希の前に立っていた。
「女、下がっていろ。この事は他言無用だぞ」
「えっ、ウサギ!?」
夏希の前に背を向けて立っているピンクのウサギ――のきぐるみ!?
舞桜は驚いた様子も見せていない。それどころかピンクウサギに視線を合わせようとしていない。
ピンクウサギはゆっくりと片手を上げ、手のひらを炎に向けた。
「トルネード!」
高らかな声と共に突風が巻き起こり、炎の一部を掻き消し、海を割ったような一本の逃げ道を作った。
作品名:まおー転生 作家名:秋月あきら(秋月瑛)