まおー転生
そう叫んで〈魔王〉は刀を抜いた。
対峙する兎もまた、光り輝く剣を構えた。
兎は背中越しの夏希に鋭い口調で言う。
「下がっていろ。絶対に邪魔はしないでくれ、それがオレと〈魔王〉の望みなんだ」
「…………」
夏希は何も言わずに背を走り出した。
それを確認して兎が〈魔王〉に斬りかかった。
刃が交わり火花が散った。
力と力のせめぎ合い。
互いの刃を挟んで顔を向き合わせる二人。
兎がこんなことを言った。
「知っているか〈魔王〉?」
「戦いの最中に話すとは余裕だな」
「この国にも桜があるぞ」
「ほう、ならば桜の下で誰かと酒を酌み交わしたいものだな。で、いつ咲く?」
「来年の春。まだまだ先だ」
「ならばまだ死ねんな」
「まったくだ」
まばゆい光が天高く舞い昇った。
雷鳴のような轟き。
閃光が世界を包み込み、遠くから刃を交える音が聞こえ、夏希は振り返った。
――まだ、未来は何も見えなかった。
作品名:まおー転生 作家名:秋月あきら(秋月瑛)