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MURDER

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 ウインクひとつ、誠は廃ビルを後にした。
  
  
 ビルの外、信号ひとつ向こうにコンビニがある。
 信号待ちをしながら、自分の服が必要以上に汚れている事に気付き、何気に手で払う。廃ビルの片隅に蹲っていたのだ、汚れてしまって当然である。
「浮浪児みてぇ」
 あまりの見事な汚れっぷりに軽く吹き出す。
「コンビニ、入れっかな?」
 見回すと、すぐ脇に自動販売機。
「ま、自販機でもいっか……」
 コンビニ横の自販機に小銭を入れる。
 ……遠くから、サイレンの音が聞こえて、買った缶ジュースを手に、音のする方に身体を反らす。赤いパトライトが角を曲がって近づき、やがて、目の前を通り過ぎて行った。
「事故?」
「じゃないの?」
 走り去るパトカーごとき、周りは無関心だ。フッと鼻で笑い、誠は横断歩道を渡った。
  
  
 二階の奥のスペースに戻って来た時、実は、窓際にいた。遠くにパトライトの点滅が見える。
「今、パトカーが凄い勢いで走って行った」
 戻って来た誠の声に、実が飛び跳ねる様に振り向いた。
「何?」
「事故でもあったのかな? 俺達の家の方だよな……」
 買ってきた缶を差し出しながら、微笑む。
「コーラで良かったっけ?」
「……あ、サンキュー」
 受け取ろうと実が手を伸ばす。と、今まで隠れていた月が、ビルの中を明るく照らした。
「……え?……」
 月明かりに照らされた実の姿に、誠が首を傾げる。
 Tシャツにキレイに浮かぶ深紅の染料。……いや、シャツの柄などではない。なぜなら、その染料、実の首から頬、腕にまで及んでいるから。
「……実……。それ……?」
 缶を持ったまま誠が指差し、その指を辿るかの様に実の視線が自分自身の身体に向けられる。
「……それ……血……?」
 実を指す誠の指が震えている。
「じゃ、今、走って行ったパトカーって……」
 持っていた缶を投げ出し、
「何やった!? “親と揉めた”って、まさか、お前……!!」
 誠が実に掴みかかった。
 自分の胸倉を掴んでいる腕を引き離そうと、実が手を伸ばしてくる。が、誠は更にその身体を引き寄せる。
「おじさん、おばさんに何した!? こんなに返り血を浴びてるなんて……一体……」
「あんまりしつこいから、斬りつけただけだよ」
 誠の腕を振り払い、実が呟く。
「テーブルの上に果物ナイフが置いてあったからさ」
「……実……」
作品名:MURDER 作家名:竹本 緒