MURDER
実の問い掛けに、誠が頷く。
「俺、一人息子だからさ。あの病院、俺が継ぐのが一番いいだろうし……。ま、医者自体は悪い職業だとは思わないから。……大変だろうけどさ」
「……そっか……」
項垂れる実。それを見て、誠が顔を覗き込む。
「どした? ひょっとして、深刻?」
「ウチはさ、ただのリーマンじゃん。なのに、“弁護士”を要求だぜ!?」
暗い壁を見つめていた実が、
「自分の夢を息子に託すなってーの!!」
その怒りを思い出したかの様に、手元にあった空き缶を向こうの壁に投げつける。
“ガンッ!!”
缶が勢い良く当たり跳ね返ると、床を転々と転がって行く。
その様子を見ながら、
「それが、俺達にとって“幸せ”に繋がるって思ってるんだよ」
本当は分かってんだろ? と呟く。
「でもさ……」
頷きつつ、今度はペットボトルのふたを手に取り、投げてみる。
「でもさ、俺の言葉をこれっぽっちも聞いてくれない……」
「やなんだ、“弁護士”」
まぁな……。と実が小さく頷く。
「何がいいんだ、実(おまえ)?」
「……建築家……かな?」
その言葉を聞いて、誠が妙に納得。
「そうだな。“弁護士”より、全然向いてる」
実が恥かしそうに、それでいて嬉しそうに笑った。
「それで揉めたの?」
問われてハッとした様に誠を見るが、その目を即座に逸らして頷く。
「お前は、さ。何で揉めた訳?」
丸くなる実とは対照的に、身体を伸ばして誠が答える。
「先刻も言ったろ? ……“更に上を要求する”って」
「あぁ……」
「こっちはちゃんとペース配分してるんだから、それを乱すなっ! って」
「あ、分かる、それ!」
「だろ!?」
「一気にやったって頭には入んないもんな」
「こっちの……」
と、誠が自分の頭を指差す。
「こっちの調子を整えて、いける時にペース上げるじゃん?」
「うんうん」
「俺のペースは俺にしか分からないってのに、それすらも自分達でどうにかしようとするから、つい……」
「溜まってんだよな、俺達」
「そうそう!」
「理性で抑えてんだから」
「それを突付くなって感じ?」
そして、二人で笑い合う。
「喉、渇いたな……」
笑い終わって、実がポソリと呟いた。
「飛び出して来たから、なんも持ってない」
「小銭なら、俺、持ってる! 買ってくるよ」
誠が立ち上がる。
「飲んだら、帰ろうぜ」