MURDER
自分の唾を呑む音が響く位、静かだ。一瞬、気の所為だったのかとも思うが、確かに誰かの気配を感じる。
“カサッ”と板の群がる所に足を踏み入れる、と同時に“カタッ”と板が動いた。間違いない、絶対に誰かいる!
もう一歩。
“ガタン”
すぐ前の板が動いた。
そーっと手を伸ばし、一気に払い退ける。
「誰だっ!?」
暗い中、目を凝らして人影をジッと見詰める。
腕を振り上げて顔を隠すように板の隙間に隠れているのが確認できる。その腕が少し下がり、腕越しに見覚えのある瞳が見えた。
「……実……?」
影が囁く。
突然名前を呼ばれ、ギョッとするが、
「誰だよ!?」
逆に知っている人間だと確信し、問い返す。
「隠れてちゃ、判んねーだろっ!」
言うが早いか、影の片腕を掴んで、引っ張りあげる実。
背丈は自分と変わらない、が、このサラサラの茶色かかった髪は……。
「……誠!?」
名前を呼ばれ、もう片方の腕で隠していた顔を上げる。
「何やってんの、お前!?」
問い掛ける実に、
「お前こそ、何やってんの?」
安心したかの様に笑いかける。
「俺は……、その、親と喧嘩して……」
家にいられなくなって、ここにいるんだけど……。
それを聞いた誠の丸い瞳が、更に丸くなる。
「なんだよ、誠。その嬉しそうな顔は?」
「俺も!」
丸い瞳が三日月になり、クシャッと笑って答えた。
「は?」
「俺も、親と揉めてさ。頭来て、飛び出して……。気が付いたら、“ここ”にいた」
「あれから何年経ってんだよ」
「結局“ここ”なんだよな……」
「あの頃も、怒られる度に“ここ”で泣いたっけ……」
“お前がな”と互いを指さす。
「流石に、今は泣かないけど」
「でも、今もあん時も、言われてる事は変わんねーの!」
実が眉をしかめながら、苦笑い。
「そうそう。俺の顔見ると」
「「勉強しろ!」」
だもんなー。
と、声を揃えて笑う。
「でも、いいじゃん」
お前、成績良かったじゃんよ。
実が誠の前にしゃがみこんで指差す。
「良かったら良かったで、更に上を要求するんだよ、親って……」
誠が溜息をつく。
「跡を継がせたい気持ちは分からなくも無いんだけどさ」
「跡、継ぐんだ、誠(おまえ)。小さい時、嫌がってなかったっけ?」
「色々と理解してなかっただけだよ」
「理解してるんだ、今は」