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MURDER

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 もうじき取り壊し作業が始まる廃ビルに、実(みのる)は飛び込んだ。
 五階建ての二階の奥の部屋に、後ろを気にしながら、それでも、走る事は止めずに駆け込む。
「ここまで、来れば……」
 息を切らして飛び込んだ部屋で、ようやく一息つく。
 人が出入りしなくなって十年以上たったこのビルは、幼い頃の格好の『秘密基地』だった。一階では、すぐに見付かってしまう。でも、あまり上へ行くのも崩れそうで怖い。だから、二階の奥。小学校の頃は、よく仲の良い友達と遊んだものだ。ここへさえくれば、無限の可能性と自由を手に入れた気になった。
 高校生になった今、みんなとはバラバラになってしまったが……。
 薄暗い部屋の中、慣れてきた目にあの頃の落書きが目に入る。
 『ピーマンなんか、食えるかっ!!』『宿題! なくなれっ!!』『明日、休みたい!』『どうせ、バカだよ!』『理香ちゃん、好きだっ!』『腹減ったーっ!!』『サザエでございまーす』『リレーの選手だぜ!』『←マジっ!?』『実、かっこいー』『俺じゃねーよ!選手は、誠(まこと)!』
 懐かしい落書きは昔のままだ。
 いつも、五人一緒だった。宿題を忘れるのも、悪戯をして怒られるのも……。それが、“高校受験”という壁によって、見事に引き裂かれてしまった。今は、みんな別の高校だ。それぞれ、“進む道”によって別れてしまったのだが、進学して二年、連絡は年賀状代わりのメールだけになってしまった。『時間ができたら、会おうな』が決まり文句だ。大学受験まで一年しかない事を考えると、会う事はできないだろう。
『K大が最低条件だ!!』
 頭から押さえ込む様な父親の言葉が蘇り、足元にあった空き缶を蹴る。
「……っせーよっ!!」
 某有名私立大学。極端に成績が悪い訳ではない。頑張れば、その上だって狙える。でも、親の決めた道を進む気は毛頭無い! 言いなりに進学なんかしたら、それこそ、親の思うつぼだ。
「チッ!」
 イライラして、もう一つ、缶を蹴る。
“カンッ”
 壁に当たった缶が跳ね返り、板の立て掛けてある一角に落ちた。
 と、
「……っつ……」
 小さな声がして、実が跳ね上がる。息切れの動悸がようやく治まったと言うのに、今度は、緊張の動悸が胸を締め付ける。
「……誰か……いるのか?」
 恐る恐る、一歩、また一歩と踏み出す。
作品名:MURDER 作家名:竹本 緒