赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹
9 12/25更新
そうして、私は高校生になった。
独りぼっちだけど……でも、私が望んだ状況。結果。
誰かに関われば、また誰かを傷つける。人が傷つくのは見たくないのに、頭の中の誰かが、それを欲している。
ダレカ。
…………あなたは、誰なのか。
目を閉じ、自分の頭の中に巣食う何者かを探し出す。実体は掴みきれないけれど、手応えはある――ソコにダレカがイル、という、手応えが。
…………あなたは、誰なのか。
問う。
…………私は。
と、ダレカが返す。
…………××××××だよ。
ああ、何故だろう。そのダレカは、私がどうしても思い出せない、でも大好きだったあの人の名前を口にした。私は思い出せもせず。その名前が、聞き取れない。
狂っているのだろうか……私は。
もうそろそろ、限界だ。限界が近付いている。この、私の頭の中の××××××が、またナニカを欲している。抑えつけるだけで一杯一杯の私は、いつか壊れるだろう。予感がする。何の確信も無い、ただの直感。けれど、いつかきっと実現してしまうだろう……。
私には、何も出来ない。
私は、無力だ。
ダレカを止めることも消すことも出来ない。ただ、いつか来るだろうその時を待ち続けるしか。
ああ、本当に。
私はなんて、馬鹿なのだろう……。
かくして私は、高校生活を送る。中学の延長線上の、無為の日々。何もせず、誰とも深く関わらず。ただ静かに、生活する。
そうして、二年の月日が過ぎて。
私は、三年生になった。
あと一年。あと一年で、ここも終わる。ここを去れる。そうすれば、ここの人達も、誰も傷つけずに、済む。
そう思っていたのに。
彼と、出会ってしまった。
――――更衣雨夜。
今まで、先生以外に心をひかれなかった私が、初めて心をひかれた、人。
もっと関わりたいと、そう願ってしまった、人。
それは、多分。彼が私のことを――……粉々に壊してくれるような、そんな気がしたから。私が誰かを傷つけて、自分で何も制御できなくなった時、更衣君が私を……私という存在ごと、頭の中のダレカを、殺してくれそうな気がしたから。
だから、ひかれてしまったのだろう。
私と同じ様にナニカを隠している彼に、ひかれてしまったのだろう。
私と同じ匂いがして。
いつか、私を壊すだろう彼。
そして私は、今まで封じていた、人との関わりを……一時的にせよ、取り戻すことに決めたのだった。大黒小白ちゃんや島路求君。彼らとも、微妙にせよ、関わりが生れた。六年ぶりの、人との接触。それらは新鮮で、楽しくて。今まで私の大半を占めていた、頭の中のダレカの割合が、少しずつ減っていった。
――――そして。
その頃から、今までは殆ど無かった記憶の喪失が、頻繁に起こるようになっていく。
それは丁度、通り魔事件が起こり始めた頃。
それは丁度、……私が更衣君に気持ちを打ち明けた頃。
私が彼を好きになったのは。
彼を、優しいと思ったからではない。誠実だと思ったからではない。真面目だと思ったからではない。面白いと思ったからではない。格好良いとおもったからではない。憧れていたわけでも、ない。
私が彼を好きになったのは。
彼が、いつか私を壊して、殺して、そして停止させてくれる存在であると、分かったからだ。
そう……。私はきっと、彼に止めを刺されることになるだろう。彼がそれを望もうと、望むまいと。きっと彼は、『私』という存在に終止符を打つ。私は、それを望む。彼がそれを望もうと、望むまいと。
元々、私はいてはいけない存在なのだ。しかも、自分で自分に蹴りをつける力さえ持たない、非力で愚かな、罪人だ。
私には、私を裁く人が必要で……それがたまたま、彼であるという、ただそれだけの話。
どうか。
どうか、更衣君。
いつか私を、完璧に、停止させてください……。
作品名:赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹 作家名:tei