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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹

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――咲屋、だ……。
「何て?」
――ちょっと待て……えーっと。『昨日話せなかったことがあったので、今から会えますか?』だと。どうする?
「そうだね……君の都合が良ければ、良いんじゃないかな。……僕も、ついて行こう」
――ああ。そうしてくれると有難い。
 何かあるかもしれないしな……。思いながら携帯電話を操作し、その旨を伝える。まもなく返信が来た。
『ありがとう。学校の門で待ち合わせで良いかな?』
 返信――『それで良い』――返信――『じゃあ、待ってます』
――学校の門で、待ってるそうだ。
「ふうん」
 紅也は肯いて、何やら計算するような素振りを見せてから、俺の手首をがしっと握った。
――うん? どうした、紅……。
 也、と言い終わる前に、紅也は俺の目を自分の手で覆った。当然のことだが、視界は真っ暗だ。急に何を、と思ったが面倒なのでわざわざ逆らわない。
「ちょっとごめんね」
 言って、紅也は何かを呟く。……聞き取れなかったが。また、何か液体を撒くようなばしゃ、という音がした。……何、やってんだろう。住宅街の真ん中で怪しい行動を取るのはどうなんだろう。そんなことを考えていたら、やがて紅也の手が俺の目の上から離れた。
――もう目、開けて良いのか?
「うん。ごめんね、いきなり」
――いや、良いけど……。
 言いながら目を開けると。
――おおっ? ……って、あの……はい?
 俺は大いに戸惑うことになった。紅也はくすくす笑う。
「面白い驚き方だねえ……。やってみた甲斐があった」
――でも、だって……こりゃ驚くだろう。
 瞬間移動。ここは、学校の門前じゃないか。
――お前、こんなこともできたのか?
「うん、まあね。あまりに久しぶりにやったものだから、ちょっと不安だったけれど。……気持ち悪くなったりしなかった?」
――ああ、全然大丈夫……。にしても便利なもんだな、アクマって。
 思わずそんなことを言うと、紅也の笑みに、少し哀しみが増した気がした。
「そんなことは、ないよ。……便利なんてものでは」
――…………? あ、ああ……お前がそう言うんなら、そうなのかも……な。
 適当に、俺は肯く。どうして紅也が悲しそうな表情をするのか、分からなかった。……が、どうでも良いのだ、そんなことは。俺には、関係のないことだ……よしんば関係あったとしても、俺には人の気持ちは分からない。まったくと言って良いほどに。ましてやアクマの気持ちなど。分かるはずが、ない。
 でも。
 なんなんだろうな。妙に、気になる。まるで……まるで、自分の事のような気がするのだ。調子が狂う。どうでも良いはずなのに……まるでこれでは。
 俺にも『心』が、あるみたいじゃないか……。
「ん? どうしたのさ、急に黙っちゃって」
 紅也の言葉で、俺は我に返る。
――いや、なんでもない。
「ふうん」
 紅也は別段気にする様子もなく、学校の門の前に立つ。夕暮れの学校。もうじき、闇に閉ざされるであろう場所。門は侵入者をかたくなに拒んでいるかのように立ちそびえ、細い格子形の影を、地面に落としている。どうやら咲屋は、まだ来ていないようだ。それもそうか。あいつの家からここへは、最短ルートを全速力で走ってきたとしても、最低三十分はかかるはずだ。
 学校の外壁に取り付けられた時計は、四時四十四分を指している。