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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹

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 早倉井医院を出ると、途端に世界に音が戻った。車の音、風の音……どれだけ早倉井医院内が静かだったか、よく分かる。外の世界はもう、確実に夜へ向かっているようだ。
「昨日」
――ん?
「昨日の今頃だね……、朱露ちゃんに会ったのは」
――ん……。ああ、そうだったっけか。
「まさかまた忘れてたわけでは……まあ、良いさ。どうでも」
 何となく、紅也に見捨てられたような気がする。……気のせいか。
「ところで」
――ん?
「朱露ちゃんについての先生の話、どう思う?」
――んー……どう思う、と言われても……な。事実なんだとしたら、朱露はもう死んでいる。この世にいない。
 俺たちが会ったのは、幻だということになる。
「でも、君はその幻に殺されかけた……脅された」
――うん……まあ、そうなるな。
 相変わらず他人事のようにしか話せない自分に多少驚きながら、俺は肯く。
――なあ、紅也? お前みたいなアクマやテンシやらカミやらがいる、ってコトは……。
「幽霊がいるかどうか?」
――ああ。『あれ』……、ユーレイだった、ってことはないのか? それならまだ、納得がいく。
「うん……そうだけどね。ユーレイは、いると言えばいるし、いないと言えばいない」
――は?
「だから、『いる』と信じる人にとってはそれは『いる』のだし……『いない』と信じる人にとっては、それは『いない』ということ……ユーレイっていうのは、そういう存在なんだよ」
――ええっと。
「分かるようにたとえ話をしよう。『いる』と信じる人が、あるとき暗闇でなにかが光ったのを見る。彼――若しくは彼女は、それを『人魂』である、と信じる。そう捉えた時点で……それが『人魂』であると認識した時点で、それの正体が何であれ、それは彼にとっての『人魂』となる」
――…………。
「もしかしたらそれは、猫の目だったかもしれない。車のヘッドライトだったかもしれない。けれど、彼にとってはそれは、紛れもなく『人魂』というモノなんだよ。……では、『いない』と信じる人の話もしようか。『いない』と信じる人が、先ほどの例と同じものを見たとする。彼若しくは彼女は、それは『人魂』などではないと否定するだろうね。……それが例え本物の」
――人魂だったとしても、か。
「うん。……ね? 結局、ユーレイという存在を作り出すものは、それを見た人間なんだよ。幽霊の正体見たり……って言われるように、人は自分の頭の中で色々と作り上げてしまうものだからね。……一概に『いる』『いない』で括れるモノじゃない。『いる』と言っても『いない』と言い張る人はいるし、『いない』と言っても『いる』と信じる人もいる。ユーレイの形なんて、人間の数ほどあるんだよ」
――ふーん。
 納得はするが、でも俺が聞きたかったこととは微妙に的が外れているような気もする。……気のせいだ、多分。
――なあ。
「ん?」
――お前は、どうなんだ? ……ユーレイ、信じているか?
 俺が聞くと、紅也は首を女子のようにかしげて、うーんとうなる。
「そうだねえ……。僕は、いようがいまいが、どうでも良いかな」
 どうでも良い。
 いようがいまいが、自分には何の関係もない。いようがいまいが、同じこと。いたところで何かが変わるわけでもなし、いなくてどうにかなるわけでもなし。……どうでも良い。勝手にやってくれ。
 つまりは、そういうこと。
――そうか。
「うん、そうだよ。……でもねえ……『あの子』は……多分」
――ん? 『あの子』、って……朱露のことか?
「うん。『あれ』は……」
――…………?
 紅也が何か言おうとした時。
 ピルルルルル、と無機質な、携帯電話の呼び出し音が聞こえた。俺のモノだ。
――悪い。
「うん、……どうぞ」
 二つ折りの携帯電話を開いて見てみると、メールが来ていた。送信主は――
 咲屋灰良。