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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹

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「あ……、これ、小さい頃の大黒かなー……」
 島は、テレビラック上の写真に見入っている。俺もつられて、その隣の写真に目をやる。
――…………。
 どうやら『父親の会社』の創立記念パーティーでの写真らしかった。スマートな紳士といった感じの、恐らくは父親であろう男性と、上品な佇まいの母親らしき女性、そして彼女に抱きかかえられた少女――これが大黒だろう――が写っている。よくよく見ると、彼らの後ろに垂れ幕が写っていた。
『祝! 大黒運輸株会社創立』と書かれていた。
 ――――……大黒、運輸。
 石油等の輸入、ガソリンスタンドの経営、その他配達業など、幅広い仕事を請け負っている、大会社。
 …………『大黒』、運輸。
――…………。
 うえー……本当のブルジョアだったのか。
「ん、どした更衣? 顔色わりーぞ」
――あ……いや、何でも。……座ろうぜ? 大黒来ちゃうし。
「ああ、そだな」
 島には、こんな残酷な現実を見せる気にはなれなかった。短絡的で単純な島のことだ。多分、相当落ち込むに違いない。
 ……落ち込まれるのは、どうでも良かった。が、それに付き合わなければいけなくなるのは、俺としてはどうにも面倒なことだった。回避できる面倒ごとなら、なるべく全てを回避したい。俺は、そう思う。
「お待たせー。ドラ焼きと、日本茶、どうぞ〜」
 静まり返っていたリビングに、大黒がお盆を持って帰ってきた。……ドラ焼きと、日本茶、ねえ……。
 少し拍子抜けして、俺たちは一口かじる。……美味い。
「おいしい……」
 咲屋は驚いたように呟き、島は一言も喋らずに頬張る。俺たちは黙々と菓子を咀嚼し続けて、飲み込んだ。続いて日本茶をすする。
「こ、これも美味しい……」
 咲屋はもう、驚きというよりも呆れたような、諦めたような言い方で、湯飲みを置いた。ドラ焼きも日本茶も、さしてこだわりを持たない俺でも分かるほど、一級品だった……。
「どうだった?」
 大黒は少しだけ不安げな表情で、俺たちを見回す。
「美味しかったよ、小白ちゃん」
「美味かった!」
――美味しかった。ご馳走様。
 それぞれに、同じ意味の違う言葉を口にする。大黒はほっとしたようににっこり微笑んで、
「……良かった。ちょっと、いつも来客用に取ってあるお茶葉が切れちゃってて、間に合わせだったから不安だったの」
「…………」
「…………」
――…………。
 誰も、一言も返せなかったことは、言うまでもない。