赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹
「さてさてそれでは早速!」
大黒は一人ハイテンションで、教科書を開く。俺たちも、まるでそれが合図であったかのように、一斉に教科書とノートを開き始める。さっきまでのことがあるせいか、大黒以外の三人は若干ロウテンション気味だったのだが、大黒にそれを気にする気配はない。
そうして勉強会が、始まった。
――五分後。
「…………」
「…………」
「…………」
――…………。
――十分後。
「…………」
「…………」
「…………」
――…………。
――三十分後。
「…………」
「…………」
「…………」
――…………。
さらさらと。
シャープペンがノートの上を滑る音だけが、三十分間も、延々と聞こえ続けていた。
「……、うーんとさ」
その沈黙に耐えかねたように、大黒が口火を切る。俺たち三人は手を止めて、大黒に注目する。大黒は少しためらいがちに、
「なんかさー。私のイメージしてた勉強会と、違うんだよねー……」
と、ため息混じりに言った。
「小白ちゃんのイメージしてた勉強会……?」
「どういう意味だよ? 大黒ー」
咲屋は首をかしげ、島は大黒を気遣うように、聞く。
「なんていうかなー。こう、クラスメート四人が集まったってことはね、うーん……もっとこう、話に花が咲いても良いんじゃないかな〜、と……こう思う訳なんだけど」
まあ、言いたいことは何となく分かる。島は「あー……」と納得したように。咲屋は「そうなの?」と、いまいちよく分かっていないように、反応を返す。大黒は「そうなの」と肯き、
「だから、もう少し楽しくやらない?」
無茶を言う。
勉強を楽しくなど、できるはずがない。――……ということは、大黒が言っているのは。勉強ではなく。……世間話、か?
「ってことは大黒? オレらは、話した方が良いってことか?」
「うん。そう」
自分から勉強を教えて欲しいと頼んできたくせに、大黒ははっきりと答えた。ころころと考えの変る奴である。
「何について話せば良いんだ?」
「そうだね……」
うーん、と考え込む大黒。咲屋は大黒と島の会話を聞いているのかいないのか、またいつものように、ぼーっと中空を見つめている。
「じゃあ、更衣君、決めてくれない?」
――…………。
どうして、俺が。
「だめかなー?」
あからさまに嫌そうな顔をしていたのだろう、俺は。大黒は、少し困ったように腕を組む。
「じゃあしょうがないから、適当に話そうか」
「それって普通の会話じゃ……」
「悪い?」
「いいえ」
しょんぼりと肩を落とす島。前途はまだまだ多難のようである。
「それじゃあ――……」
大黒が話し始め。
「へえー」
島はそれに相槌を打ち。
「…………」
咲屋は身動き一つせずぼーっとして。
「やっぱり何か違うっ!」
大黒は叫んで、机をばん、と叩いたのだった。
作品名:赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹 作家名:tei