小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹

INDEX|15ページ/51ページ|

次のページ前のページ
 

「ふえー…………」
 何階建てかは知らないが、見上げていると首が痛くなるような高層マンションを一目見て、島はそんな感嘆を漏らす。
「ふうえー……」
 更に、もう一度。
「ふ……」
「しつこい、島」
「はい……」
 大黒が、眉をしかめて島を一刀両断する。
――……にしても、高いな……。何階まであるんだ、これ?
「20階まであるって」
――すごいな……。大黒は、何階に住んでるんだ?
「うーんと、13階」
――…………。
 縁起悪いな、とは。流石の俺でも、言えなかった。
 かくして、俺たち四人は清潔なエレベータに乗り込み、13階まで上がる。このエレベータは壁の一つ、丁度入ってきた時に真正面に見える位置、つまりはその入り口の反対の壁面が、一面ガラス張りになっており、上に上がるにつれ、街を一望できるようになっていた。
「ふ……うわー、すごいなー景色……」
 島は先ほどのことを学習したらしく、『ふえー』という間の抜けた感嘆詞を使うことを、途中で止めた。
「そう?」
 大黒はさして気にしていないらしく、窓の外の風景に、目をやろうともしない。――ま、そうだろう。毎日見ている風景なら、いちいち反応するのも面倒なのに違いない。
「……綺麗……」
――ああ、綺麗だな。
 咲屋は、誰にとも無くそう呟いた。俺も、誰にとも無く、相槌を打つ。咲屋はエレベータが止まるまで、じっと外を見つめていた。
『13階に到着しました』
 アナウンスと共に、ドアが開く。ぞろぞろと、俺たちは外へ出る。エレベータを出てすぐのところに、『大黒』という表札のある扉が眼に入った。
「ここが私の家だよ。どうぞ上がって上がって」
 大黒はがちゃりとドアノブを開け、照明を点けた。明るく照らされた玄関に、まず島が、次に咲屋が、最後に俺が入り、靴を脱ぐ。
「――って、広っ! 何この玄関……オレの家の玄関より、三倍は広いぜ?」
「うわ……三人入っても、まだ余裕があるよ……」
――…………。広い、な。
「そうかな?」
 先に玄関から廊下に上がっていた大黒は、首をかしげた。
「そんなに広いとは思わないけど……?」
 いや、大黒の家の玄関は、十分に広かった。それだけで一つの部屋になってしまうほど……とは言い過ぎかもしれないが、ともかく金持ちの家だということが、入った瞬間に分かってしまう……そんな雰囲気を漂わせた、玄関だった。そういえばさっき、この階に着いたときには大黒家の扉しか見当たらなかった。エレベータは、俺たちが乗ってきたものだけだったはずだ。つまりそれは、このマンションのワンフロアまるまるが、大黒の家であるということを意味している。……これを広いと思わないということは、大黒は恐らく、もっと豪勢にやっている家を知っているのだろう。
 こんなにも身近にセレブがいたとは思わなかった……。
「さーさー、玄関なんかで満足しないでよね! とっとと上がった上がった」
「お……おう」
「うん……」
――ああ……。
 めいめい気後れしたような返事をしながら、大黒の後に続き、リビングへと向かった。
「…………」
「…………」
――…………。
 そこは、予想していた通り、『金持ちの家のリビング』だった。
 何というか――そのリビングは、とにかく広かった。広い上に、きちんと整理整頓された家具が程よい調和をなしていて、まるでどこかのモデルルームのよう……いや、あそこまで安っぽくはない。
 中央には薄型ハイビジョンテレビ――地デジ対応。一体何インチだろう、少なくとも俺の家のものの、五倍はありそうだ。テレビラックには写真立が数個置いてあり、ケース内にはビデオからDVD、CD、MD、果てはテープやレコードまで、ありとあらゆる記録メディアが積み重なっていた。カーペットは毛足が長く、もこもことしていて肌触りが良い。テレビに向かって配置されたソファは革張りで、座らなくてもすわり心地の良さが分かるようだった。部屋の隅には食卓テーブル――これまた大きく高級そう――が配置してあった。どうやらこのマンションは、対面式ダイニングではないようである。
『ゴポポポポ……』
 妙な音に振り返ると、リビングに入るドアのすぐ隣に、これまた必要以上に大きな水槽があった。中にはあまり見慣れない、美しい色の大きな魚が――。
「あ、これアロワナだろー大黒」
「うん。パパが買ってきちゃって……。世話、大変なのにさ……」
 …………アロワナ、か。
 金のかかる観賞魚だ。アロワナの飼育費くらい、余ってそうな家だもんな……。
「よし、それじゃあさっそく、勉強会、始めましょうか!」
 大黒は言って、先ほどの食卓テーブルを指した。椅子は丁度四脚ある。大黒は三人家族のはずだから、一つは来客用だろう。
「私、お菓子とか用意してくるから、適当に用意して待ってて」
 言い残して、パタパタと大黒はリビングを出て行った。お菓子か……。この分でいくと、とても庶民の口には合いそうもない、高級菓子が出てくるに違いない。