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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹

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 勉強会は、結局俺と島、大黒と咲屋の四人で行われることになった。開催場所は、大黒の家。
「えー、何で咲屋さんまで来ることになるのよー?」
 大黒はそう声を上げ、抗議の意を表した。島がそれをなだめる。
「まあまあ大黒、更衣だって二回も人の家往復するの、大変だろ」
「それはそうだけどぉ……。……むう……」
 大黒は島の指摘に頬を膨らませ、俺のほうを見た。
「更衣君、そうなの?」
――ん。まあ。
「……そう……」
 なら仕方ないよね、とため息をつきながら、大黒は帰り支度を始める。今は放課後。これから、そのまま大黒の家まで直行することになっている。何でも大黒の両親は、仕事の都合で一晩家を空けるらしい。
「なあ大黒の家って、一軒家?」
「うん? あー違う違う、マンションよ」
「へえ」
 続けて、大黒に誕生日やら好きな食べ物、挙句には付き合っている人間の有無などを、まるで刑事のように聞きだし始める島。大黒は迷惑そうだが、放っておこう。
――……咲屋? 準備、出来たのか?
 俺は、俺の隣の席でぼーっと座ったままの咲屋に問う。見たところ、まだ準備は出来ていないようだが。
「え?」
 咲屋は別の世界へ行っていたらしい。
「あ……御免。今、すぐするから……」
 慌てたように――でも、ゆっくりと――立ち上がり。咲屋は相変わらずのスローペースで、手持ち鞄に教科書類をしまいだす。
「もー……咲屋さん遅い……何やってたの……」
 いらいらした様子の大黒を、島は根気良くなだめすかす。
「まあ良いじゃん、大黒。先に玄関で待ってようぜ」
「むう」
 唸る大黒を、島は引っ張る。
「じゃあ更衣ー、先行って、待ってるから」
――おー。
 手を振って、それに答える。
「あ、ちょっと島! ……」
 大黒も島に連れられて、教室を出て行く。二人は、完全に俺の視界から外れた。俺の視界の内にあるのは、亀にたとえても良さそうなほど動きの遅い、咲屋一人になった。
「……ごめんね、更衣君……。先、行ってて良いよ……」
 とても申し訳なさそうに。
 咲屋は、泣きそうな顔で俺を見る。
「私、本当動きが遅くて……。皆にも、よく言われるの……私。だから、本当、先、行ってて?」
 ね?、と咲屋は無理をして笑う。
――いや、俺は待ってるよ。
 目を離すと倒れているのでは、と思ったからそんなコトを言ったのだが、口にはしない。
 ごめんね、本当に……と謝る咲屋。謝っている暇があったらその手を動かせ、と言いたくなったが、これも勿論口にはしない。
「これと、これ……と……あっ」
 筆入れを、咲屋は取り落とした。慌ててそれを拾おうと、空中の筆入れに手を伸ばし――。
 彼女は、バランスを崩した。
――…………っ。
「きゃ……っ」
 がしゃん、と、筆入れの落ちる音。俺は、倒れそうになった咲屋を抱きとめる。
「あ、あの……っ。更衣……君、そのっ……」
 わたわたと手を動かし、咲屋は俺から離れる。耳まで真っ赤にして、何だか知らないが、照れている。
「ご、御免なさいっ……」
――怪我はないか?
「うん、な、無い……と思う、よ……。多分……」
――……良かったな。今度からは気をつけろよ?
「うん、あ……」
――ん?
 咲屋が何か言いたそうに、俺を見上げた。
「有難う」
 真っ赤な顔で、恥ずかしそうに、咲屋はそう言ったのだった。