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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹

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 そんなこんなで五月は過ぎ。
 初めぎこちなかった、新しい席順での生活にも、慣れてきた頃。
 俺は、咲屋とも、余計な感情を交えずに会話を出来るようになっていた。もとより他人のことには気を払わない性格だったので、彼女についての評判も気にすることなく、普通に、会話を。
「更衣君、一緒にお弁当食べても良いかな?」
 咲屋は、お弁当箱を手にして、ある日そう問うた。一人で食べようと思っていたところだったが、何人で食べようが本質的には変らない。
――別に、良いけど……。
 適当に肯きながら返事すると、咲屋はまた、あの無防備な微笑みを浮かべた。
「あ! ねえねえ更衣君! 私も一緒に食べて良い? 良いよねっ」
――え……いや、まあ良いけど。…………?
 咲屋だけでなく、何故だか大黒までそんなコトを言い出し、強引に机を寄せてきた。さっきまで別の女子のグループで集まっていたのに、急になんだと言うんだろう。……訳が分からず大黒を窺うと、彼女は。咲屋を、物凄い形相で睨み付けていた。
――…………?
 さっぱり訳が分からない。何だろう、何か厄介ごとだろうか。二人の争いに巻き込まれるのは御免だぞ。
「おー、更衣、もててんなあ」
 呑気な声が、前方から。島だった。
――そういう訳じゃないんだけどな。何か、二人とも仲悪そうだし。
「そうかぁ? そういう雰囲気でもないと思うけど。まあ両手に花ってことにしとけよ。……ところでさ、オレも一緒して良いかな」
――いや、まあ別に良いけど。
「サンキュー」
 いそいそと、島は購買のパンを手に、振り返る。かくして、俺は三人に取り囲まれ、昼食を取ることになった。訳が分からない、意味が分からない。さっぱりだ。さっぱり過ぎて、気味が悪い。
 何なんだ。
 俺の前には島が座り、咲屋と大黒は左隣と右隣で互いに向き合うように座る。こういう風に誰かと食事するのは、久しぶりだった。
――…………。
「なー大黒、その弁当自分で作ったのか? 上手だなー」
「ん、これ? いやまあそうだけど、この卵焼きなんか焦げちゃって」
「でも旨そうだぜ?」
「ありがと。ねえ更衣君、更衣君の好きなおかずって何?」
――え? えっと、から揚げ。
「から揚げかあ。よし、私今度作ってきてあげる! から揚げ弁当」
――え? あ……えっと、サンキュー……。
「あ、更衣君……私も、今度作ってきても、良い……かな……?」
――え、咲屋も? い、いや嬉しいけど。
 実際、絶賛一人暮らし中の俺にとって、毎朝の弁当作りは手間だ。二人が作ってくれるというなら、これほど都合の良いことはない。えへへ、と咲屋は照れたように笑い、大黒はその笑顔に、むき出しの敵意を向ける。……怖い。
「なー大黒、オレの分は作ってくれないのか?」
「は? なんで?」
「…………いや、何でも」
 極端に落ち込む島。あまりに淡白な反応だったためだろう。
「なー大黒……」
「そうだ更衣君、今度私に数学教えてくれない? 二人っきりで!」
――へ?
 大黒の視線は、俺ではなく咲屋に向いている。あー……、やっぱり俺、二人の争いごとの、だしにされてるな。何と答えれば良いのやら。
「あ、あの……更衣君、それじゃ私には、英語……、教えてくれない?」
 少しおどおどした風に、咲屋はそんなコトを言う。
――ええっと……。英語はともかく、俺は数学苦手なんだ。人に教えたりなんてできないぞ。
 俺が言うと、島は待ってましたとばかりに声を上げた。
「あ、大黒ー。オレ、数学得意なんだけど」
「ねー更衣君、良いでしょ? 私も英語で良いから」
「大ぐ……」
「あの……、更衣君、……良い、かな?」
――…………。
 皆、口々に言いたいことだけ言いまくって、俺をじっと見つめている。島は悉く大黒に無視されたため、ものすごく沈んでいる。分かりやすい奴だ。
――大黒も咲屋も、島と一緒で良いなら、英語、教えてやるよ。
 そう言うと。
「えーなんで」とでも言いたげな大黒、「別に良いよ?」と笑う咲屋、あからさまに嬉しそうな島、という。そんな結果になった。