ソラニワ
こくんとうなづき、小雪が姿勢を正す。わずかに照れたような笑顔を見せてから、凛とした表情できれいな礼をとった。
「北見も、明日は頼むぞ」
「はい。微力ですが、力を尽くします」
敬礼に敬礼で応える。先に踵を返した小雪を追うようにして、北見も歩き出した。
遠ざかる二人の背中を見ながら、考える。
——あなたはなにも知らない——。
吹きすさぶ風の中、まっすぐに耳に届いた言葉。
侮るわけではなく、ただそれが事実なのだと、声音は告げていた。
そうだ。確かにおれはなにも知らない。
けれど。
「……今から知ることだって、できるだろう」
すべてを知ることはできなくても、知ろうとすることはできるはずだ。知り得たことを理解しようと、努力することはできるはずだ。
それが黒瀬を救うことに繋がらなくても、そのくらいのわがままは許されるはずだ……“友人”として。
——今頃、殺しあっているかも知れないね——。
そういう可能性も、なくはない。
港に現れて、殺される可能性も。
「……生きていろよ、黒瀬」
口の中で呟いて、瑞彦は遠く瞬く光を睨んだ。