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男子校読書倶楽部

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映画研究部をあとにし、あの男、恐らく部長であろう青年に教えられた呪文の通り、祢は第三校舎へと足を踏み入れていた。

他の校舎とは違い随分古めかしく、しかし絶対に倒れたりはしないといった威厳の様なものを漂わせるこの校舎は、全くといっていい程人の気配がしなかった。

ニ階建ての校舎は様々な教室が覗いていく限りあった。しかしそれの殆どがもう既に使われなくなったものばかりなようだった。その中で唯一使われているものはというと、化学室と被服室だと室内を見る限り使われているのだろう形跡で窺えた。

これはあくまで予想だが、化学室の異様な薬品の匂いを避けてここに置いているのではないだろうか。被服室はどうせ男ばかりの所帯で裁縫をするものはいないだろうと追いやられたのだろう。ここにも人の勝手で形を残す哀しい現実があるのだと思うと、不思議と溜息がでた。

そんな彼が丁度二階へと繋がる踊り場へ着いたときだった。一瞬、ここに来るまで嗅いできた匂いとは異なるものを感じた。薬品や古い校舎から漂う埃の匂いではない、確かに仄かに甘い香が彼の鼻をついたのだ。

祢は何か大宝の在り処を探り出したかように、大きく高鳴る鼓動を胸に、匂いのする方向であろう二階へと一歩一歩ゆっくりと歩き出した。

その足取りで漸く二階へと辿り着くと、祢はひたとその正体を見据えるかのように廊下の真ん中に立った。だがもう直ぐ自分の望むものがあるのだと思うと、逆に身震いするほど恐ろしくなるのであった。

着実とも言うほど、先ほど嗅いだ匂いはより強く感じられるようになっていた。それはつまりこの廊下に繋がる部屋のどこかにあるということでもあった。

確信へと変われば胸の鼓動は最骨頂に達す。歩くだけなのにとても億劫に感じた。こんな状態になる自分を誰が想像できたであろうか。その瞬間瞬間にならないと分からないものがあると感じるときは、こういう時だろうとさえ思った。

ここだ。
祢は一つの扉の前に立ちふさがった。ここが一番匂いがする。いや、ここから出ているといったほうが正しいだろうか。中を見ようかと思ったが、なんと大抵ドアについている小窓が内側から見えないように黒い紙で防視されていたのだ。これは益々怪しい。

上を見上げプレートを確認する。そこには『家庭科室』と書かれていた。
すると彼はそれを見て、スッとさっきまでの興奮がある考えから一気に冷めてしまったのだ。

―――あの男に担がれたのではないだろうか

どうして考えなかったのだろう。普通だったら全てといっていいほど可笑しな話じゃないか。あの不思議な口調で話す相手も呪文のようなあの言葉も、嘘だといえば充分頷けるではないか。

急に馬鹿らしくなってきた。それと同時に苛立ちも。こちらはこれでも真剣に部活探しをしているというのにああいう追い払われ方をされたのだ。何がまたここに来ればいい、だ。嘘だと知れた時点でノコノコ戻るほど自分も間抜けではない。そうだ、此処だって明らかにお料理ごっこをしている男達の溜まり場ではないのか。

そう勝手に決め付けるや否や祢は力任せにドアを開けた。乱暴に開かれたドアは威勢のいい音をたててその向こう側の世界を見せた。

作品名:男子校読書倶楽部 作家名:織嗚八束