生物は温かい。
女たちの集まりには、「白々しい」という言葉がよく似合う。
それはもう、老若男女問わず。
だから私はそんなCMを見るのが嫌いだ。
世の男たちはデレデレと、そこまでは言わなくとものほほんとそれを見ていると思うと全くもってイライラする。
「紗英子ちゃーん喉渇いた」
…その典型的な馬鹿な男の一人、井上良和は言った。
井上君は大学時代の斎の後輩で、ようは今も学生で、生意気な性格で生意気な顔をした明るい茶髪の青年だ。
金持ちの末っ子で自分に手に入らないものは何もないと思っている。
…でもその実そうなのだろう。
彼は4年生だというのに未だ何かしているようには見えない。
おそらくコネの嵐が待っている。
「愛は?」
…と聞かれたら、そりゃもちろん彼の肩書きとかいかにも愚かな若者代表である見た目に惹かれる者はいるだろうし、真実の愛なんて例え金があろうがなかろうが醜かろうが美しかろうが馬鹿だろうが天才だろうがそう容易く手に入るものではない。
…だいたい「真実の愛」なんて存在するのか?…と私は思っている。
だから例えそれが形だけにしろ、ちゃんと与えられている、もしくは持っていると思い込んでいる彼は多分世界一の幸せ者なのだ。
「ねー、紗英子ちゃんっ」
井上君がじれったそうにもう一度声をあげた。
私は仕方なく立ち上がる。
「コーヒー?紅茶?」
「紅茶ーっ」
井上君は上半身を露にしたまま布団の中で無邪気に笑った。
私はそんな自分にひどく嫌気がする。
こんな時、必ず斎を思い出してしまうのだ。
斎はいつもさりげなく優しかった。
斎は私が働くのを好きだとちゃんと知っていた。
だから井上君と同様私に任せつつ、でも細々とした無駄のない用意を手伝い、にっこりとお礼を言うのだ。
…そんなとき、私は斎を白々しいと思う。そして自分も。
おそらく、斎も本当は働くのが好きなのだ。だけどどこまでも優しいから、私は気付かないふりをしてしまう。
井上君はごろごろとベットで転がる。
…彼なりに気を使っているのかな。
私があんな風に電話をかけるのなんて初めてのことだったから。
いつもの彼なら意地悪そうに、
「菊池先輩は元気ですかー?」
なんて聞いてくる。
でも今日は何も言わない。
そしていつも通り何もしないのだが。
こういった痛々しい気遣いが私は案外好きなのかもしれない。