生物は温かい。
男は笑わない。
なのに愉快そうな顔をしている。
僕はゆっくりと息を整えた。
取り戻せ。取り戻せ。
何を?
わからない。
でも、取り戻さなければ。
「別にそれは全然構わねぇけどよ。」
男はぽりぽりと頭をかき、何本目かのタバコに火を点ける。
無性にその手を払いのけたくなる。
「お前はあいつのことどうするつもりだよ。」
「…。」
「あいつはな、いい女だよ。だけどな、いい人間じゃねぇ。まぁ俺も人のこと言えねぇけど。」
「…。」
「お前は違うだろ。まぁ知らないけどな。少なくともあんなのやこんなのに関わるタイプの人間とは違う。お前さ、何しに来たの?」
僕は唇を噛み締めた。
わかっていたそんなこと。
…わかっていたから。
「…よ。」
「あ?」
「だからここに来たんだよ。」
そうだ。
僕は逃げるために来たんだ。
全部清算して、そして取り戻すために。
逃げることから逃げないために。
僕はここにやって来たんだ。
紗英
紗英子
紗英子
僕は君に会いたいよ
本当に今そう思う
僕はバカだ
全部放り出すつもりなんだ
君もあの人も、
全部。