生物は温かい。
僕がしなくてはならないことはなんだろう?
そもそも僕が"したいこと"とはなんなのだろう。
僕は受け身の人生が好きだ。
とは言っても、好んで受け身になっているから決して考えなしではないと思う。
選択したうえで流されているのだ。
自分が泳ぎやすい方向に身をまかせていると言ってもいい。
わざわざ逆流に立ち向かったりはしない。
僕はそんな自分が嫌いじゃない。
…いや、嫌いじゃないはずだった。
だけど僕にはもう、わからなくなってしまった。
いい加減逆流昇ってみてもいいんじゃないか?
と、聞く僕がいる。
…そんな暑苦しい僕を冷静に眺めている僕もいる。
全てががんじがらめになって余計苦しむことになる可能性とか、色々と分析している僕が。
…などと考えつつ僕は走るバスに揺られていた。
行き先は家からバスで20分のところにあるファミレスだ。
僕は井上君と別れたあとまっすぐ家に帰った。
家に帰ると簡単に夕飯の準備をし、青山浬の帰りを待った。
青山浬は仕事から戻るとすぐに浴室へ向かう。
その間に、彼女の鞄から携帯を抜き取ったのだ。
薄い無機質な白い携帯はすぐに見付かった。
青山浬の鞄には無駄なものが一切入っていない。
僕はロックがかかっていないことを願いつつ携帯を開く。
不安とは裏腹に携帯はあっさりと初期設定のままの待ち受け画面を見せてくれた。
…着信履歴も発信履歴も仕事関係のものばかりだった。
僕は内心の動悸を抑えつつ、さらに日にちを遡っていく。
…履歴にぽつりと見付けたひとつの名前。
僕は今、その名前の主の元へ向かっている。
夕闇のなかコンビニや歩く人々の携帯の光が流れていく。
僕はそれらの風景の奥をぼんやりと見やりながらさっきの会話を反芻していた。
7コールめ。
「…しつこい」
「すみません。なかなか出てくれないので。」
「誰だよお前。なんで俺の番号知ってる?」
「あの」
「…」
「殴りに行ってもいいですか?」
「…嫌だよ。中田ビルんとこのファミレスに来い。会ってから考えてやる。」
「じゃあ今から出ます。」
「ハハッ…俺も相当恨まれてるな。」
と、その20分後が今だ。
何してるんだろうなぁ僕は。
我ながら呆れている。