生物は温かい。
「結局お前は無責任なんだよ。」
男は嘲る様に私に言った。
私はぼんやりとその美しい均等な筋肉を見ていた。
「そんでそれすらも認めたくないんだろ?最低だな。」
何もわかっていないくせに男は言う。
いや、でもそうなのかもしれない。
多分そうなのだ。
少なくとも、この男にとっては。
自分の性質は他人と比べて初めてくっきりとした姿を現す。
そして私は彼の価値基準の中では無責任なのだ。
だから、つまり私は無責任だ。
「ごめんね」
自分でもよくわからないまま謝った。
ごめんね。
「俺は俺が嫌いな人間が嫌いなんだよな。」
気付くと男は私の謝罪など何も無かったかのように次の話題へと移っていた。
それとも実は繋がっているのかもしれない。
そうだったらいい。
賢い映画みたいじゃない?
そして私は話の続きを待つのだ。
「それから俺が好きな人間はめんどくせぇ。めんどくせぇから嫌いだ。…でもお前違うだろ。」
「お前どうでもいいんだろ。俺がここでお前に死ねっつってもどうでもいい顔するだろ。何言っても何してもどうなってもそうだろ。まぁ別にいいんだけどよ。人のこと言えねぇしな。…だけど」
「だけど…。」
語尾を上げずに彼の台詞の文末を繰り返して、先を促した。
でも自分が動揺していることはよくわかっていた。
もうひとりの私は彼に掴みかかって叫んでいた。
でも現実の私はただ珈琲を飲んだ。
どうしちゃったのよ。
なんでそんな諦めたしゃべり方してるのよ。
そんな男を
「なんでお前そんな」
「俺に執着してんだよ、どうでもいいくせに。」
(そんな男を愛したはずはない。)
…彼がはっきりと私を疎んでいることがわかった。
彼にとって初めての失態であろう。
なにせこの男はいつも周りの人間が動くままに流れてきたのだから。
こんなに、人を嫌ったのは初めてだったのだろう。
だからこんなにも。
「明日」
性懲りもなく私は呟いた。
ナシノツブテだこれは。
ちゃんとわかってはいた。
「あの、レストランに来て。来なくてもいいから来て。」
…多分。
なんだそれ、と男はかすかに笑った。
それはひどくどうでもよさそうな笑いかただった。