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生物は温かい。

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「おっけー青山ちゃん…は、今日来るっけ?」

私は即座に考えた。
来る?
ーあぁ、飲み会。

「行きません。」

あっそぉ、と上司は笑う。
行くと言っても行かないと言ってもこいつは笑うのだろう。

私は少し肩を鳴らし、席に戻って行く。

…まずい。と思う。

だめだ、だめなのだ近頃の私は。
甘えすぎている。

彼に。…いや、それを許す自分に。

ドアを開ける。
彼がいる。

ただ、それだけだ。
特に会話をするでもなし。
抱き合うでなし。

着替える服もない私は彼のブカブカの服をだらしなくだらんとさせてかりている。
清潔な匂いの服。

ドアを開ける。
彼がいる。

それだけ。

でもだめだ。だめだだめだだめだ。


最後に会社を出た私は汚れた空気に汚れた白い息を吐く。

いくら混じっても汚れるしかない。


…そんなことを考えるのは帰り道だけだ。
会社では何も考えていない。
事務的に仕事をこなし、機械の番号のように仕事仲間や業者の顔と名前を一致させる。
それは彼相手でも全く同じだ。

…なのに帰り道、私の中の何かが揺らぎ出す。
グラグラと私をきっちり掴み、揺さぶるのだ。
私はその場に倒れそうになるのを何とか抑え、タクシーに転がりこむ。

そして眠る。何もかもをシャットアウトして。

…それなのに、今日の運転手はうるさかった。
煩わしくてイライラする。

彼は言う。小うるさい奥さんの嘘臭い勘違いだとか、タクシー仲間の酔った時のありがちな癖だとか。
私は適当に相槌をうつ。

「あっそうそう今日変なお客がのったんですよ。」

私はますます眠くなる。
何も考えたくない。

運転手はますます饒舌になる。

「最近変なノラの生き物を拾ったんですって!えらく楽しそうに話してましたよ。ノラだから帰ってくるかわからないのにご飯毎日用意して待ってて、来ない時は自分で食べちゃうそうなんですよ。動物の飯食って大丈夫なんですかねー」

私は気のない声でそうなんですかと答える。

…あぁ、でも
あのこだったらやりそうよね。




…そして、結局私はドアを開けてしまうのだ。


作品名:生物は温かい。 作家名:川口暁