沼池主の日常
?本?は小学校の中にいるものだから、さまざまな子供や教師を見ては、面白がってなまずに話してくる。『本の好きな人しか来ない』場所だからこその面白さもあるらしい。
「でね、今度の図書委員長は女の子なんだけど、すっごい優しくてしっかりした子なんだ。一年生のときからしょっちゅう図書室にきてたんだけどね」
「ふむ」
「本のページとか折り曲げてる子がいたらすぐ注意してたりさ」
「ふんふん」
「このまえなんか、一年生の子に対して自分から、自分からだよ?絵本を読み聞かせてあげてたりしてたんだ!」
「ほうほう」
「で、その読み聞かせが上手いのなんのって!僕も聞いてて、ちょっとジーンときちゃった」
「ふーん。・・・・・・今日のパン、美味いな。にんじんが入ってる」
「でしょう?」
給食のパンを食べているので真面目に聞いていないなまずに対しても、まるで怒らない?本?はよく喋る。しかも、パンを誉められたのが嬉しかったのか、誇らしげに胸を張っていた。そして、『図書委員長の優しくてしっかり者の女の子』についての話を、再び饒舌に喋り始めた。
「でもさ、せっかく君が考えた『学校の七不思議の一つ』を、その子は信じてくれないんだよ。僕はちゃんと実行しているのに」
「・・・・・・・・まだあれやってたのか、お前は」
『学校の七不思議の一つ』とは、なまずが給食のパン欲しさに考えたものである。内容は「放課後の図書室へ行って、給食のパンを一つ置いていくと、次の日の放課後に図書室の幽霊が願い事を叶えてくれる」というものだった。面白半分に?本?と二人で考え、さまざまな教室の中の机に一つずつ、『学校の七不思議の一つ』として彫っておいた。
そうすると、思いのほかパンがよく図書室に置かれるようになったのである。もちろん、図書室の幽霊とは、?本?のことだ。この様子だと、本当に願い事を叶えてやっているらしい。
「その子は信じないからさ、放課後に一人で来て『パンが腐ったら図書室が大変な事になるじゃない』っていって怒って回収しちゃうんだよ。本の事を思ってくれてるのはすごく嬉しいんだけどねー・・・」
「子供でもそういうのを信じないのは一人くらいはいるものだろう。・・・それより私としては、一人で学校に忍び込む度胸のほうが感心するが」
「そうなんだよ。もっとも、回収される前に僕が先に取っておくようになったから、ちゃんと君のパンの確保はできるけど」
それにしても子供のお願い事ってかわいいんだよね、と?本?はくすくす笑う。
隣の席の子に告白できるようになりたいだの、テストで百点満点が取りたいだの、かけっこで一番になりたいだの、けんかした友達と仲直りがしたいだの。いろんな『お願い事』を聞く?本?は、楽しくその子供たちのお願い事を叶えているらしい。
なまずは楽しそうに毎日を過ごす?本?の話を聞くのが好きだった。