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ツイスター
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沼池主の日常

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「それで、今日はどこへ行きますんで?」
「・・・・・・なんでおまえにそれを言わなくちゃならん」
「やっだなぁ。いいじゃないですか、教えるくらい。僕となまずサンの仲じゃないですか」
 やれやれ、と言わんばかりに、目の前の魚――こい――は首を振った。
 わざわざ「仲」を強調するあたり、相当嫌な性格である。その事はもう知っている。
「なまずさまっ、今日は外にいかれるんですか?」  
 やかましく騒いでいた『きんぎょ』の中の一匹が期待するような目で尋ねてくる。
「・・・・・昨日やっと帰ってきてゆっくり眠っていた最中、やかましい喋り声で叩き起こされた私に、おまえはまだ私に外へ出てこいと鬼畜のようなことを言うのか」
 じろり、と睨むように横目で見ながら言うと、きんぎょ達がオロオロしはじめた。
 しかし。
「いっつもそんな感じじゃないですか、なまずサン」
 抗議するとすぐこれだ。
 こいが、にやにや笑っているような顔で弁解したせいで、尋ねてきた一匹がほっとしているではないか。なんとなく腹が立つ。
 多勢に無勢。私がいささか可哀想だと思わんか。
 はぁ、とため息をついた。つかずにはいられない。
「・・・・・・・・・・何を取ってきてほしいんだ、言ってみろ」
 きゃあっ、とやや反省してしょんぼりしていたきんぎょ達の温度が上がった。
「えっと、お花の花びらとって来てください!」「あたしびいどろ!」「緑色の硝子!」
「今の時期なら・・・赤い実とって来てください」「あっ、それ私もほしいです!」
「あとあと、きらきらの光が映る板欲しいです!」「それ?かがみ?って言うんだよ」
「あたし葉っぱがいいなぁ」「えー、趣味悪くない?」「そんなことないもん!綺麗だもん」
「あ、僕は食べ物ならなんでもいいです。でも腐ってるのとかはやめてくださいよ」
「・・・・・・・・・・・・」
 はぁぁぁ、とため息をついた。つかずにはいられなかった。

〇●○


 昔はそれなりに栄えていたけれど、今ではすっかり寂れた田舎町。
 それが、なまずたちの住む町の印象だった。住む町、とは言うものの、なまずたちの住む屋敷は町から相当外れた、山の麓にある。町は山にぐるりときれいに囲まれたような盆地で、それほど小さくはない。なまずたちの住む屋敷からしばらく行ったところに川があり、そこを越えればようやくぽつぽつと家が見え始める。
 ―――――屋敷といっても、もう我々以外の誰が気付いているものか。
 なんせ呆れるほど孤立した場所に建てられている屋敷である。人間の住んでいないボロ屋敷のことを知る者は、もうすっかり年を取った老人か、あるいは、化けたモノぐらいしか知らないだろうな、となまずは思った。
 人間の姿に化けて、橋を渡る。整備された橋の上からは、コンクリートの固い感触がした。
 なまずにとって、土の地面とコンクリートの地面を繋ぐこの橋は、境界線だった。
 目的地である、この町に二つある小学校のうちの一つ、東小学校へはもうすぐだった。



作品名:沼池主の日常 作家名:ツイスター