左手ピース
07.本当のこと。
教室の目は松橋姉弟がいる、それもどっちもべっぴんだぜということで徐々に俺たち三人の方を向いていた。正確に言うと二人だけど。
「おい、ちょっと」
「ん?」
そう言ってアイツの手首を掴んで全力で教室を抜け出した。一刻も早く教室から、マツハシさんの前から消えたかった。逃げたかった。
「ちょ、ちょ…ちょっと!」
「うるさい」
「どこ行くんですか~?」
気の抜けたような声に苛立つ。それにどこか楽しげなところにも更に苛立つ。
「どこだっていいだろ」
「いいっすけど」
……なんで、よりにもよって……。
そんな思いだけがオレの頭の中をぐるぐる回っていた。
◇
「おお~、桜が綺麗だ」
「……」
腹が立つほど間延びした声を発するアイツとオレは校舎とは離れたところにある体育館の裏側にいた。ここは演劇部の部室の裏側でもあって、このぐらいの季節になるとここで発声をしたり大道具を作ったりしている。馴染んでいる場所ということもあってか、だいぶ落ち着いてきた。
空は快晴。雲一つない。春特有のほんわり暖かい風と生きている匂いがした。これからたくさんの命が表に出る匂い。
そんな春の陽気と朝の清々しい空気のおかげでオレの気持ちも徐々に落ち着きを取り戻してきた。困惑は消えないままだが、苛立ちが薄れていく。
「気持ちいっすね」
「……う、ん。あのさ」
「なんすか?」
「……何であんなこと言ったの?」
「あんなことって?」
おい。
「え、だからさ、マツハシさんにオレのこと彼氏だよって言ったじゃん」
「……そんで?」