左手ピース
05.脳がストライキ。
見覚えのある名前と馴れ馴れしい内容のメールが一通。
>先輩!
>アド交換してくれてありがとーう(*´Д`*)
>めっちゃ嬉しいっす!!!(ハート)
オレにハートの絵文字を使うな。
>なんか心ここにあらずって感じでしたけど大丈夫っすか?(´・ω・`)
大丈夫じゃない。お前のせいだ。
>あ、今度一緒に学食でカレー食べましょうよ! きーまり(ハート)
>そんじゃ、また明日^^ノシ
おい、勝手に決めるな。オレは可愛い可愛いマツハシさんとご飯を食べに行きたいんだよ。
なんだかどこか遠い彼方へ一人旅をしたくなるような気分だった。あのマツハシさんの弟君はアイツなのだと思うとますます遣る瀬無くなって、ベランダから思いっきり叫びたくなる衝動を抑える。
オレは一体、あの後どういった行動を取ったのだろうか。まさかとは思うが、いや、そんなはずはない。そうであってはいけないのだ。
オレはアイツの気持ちにどう答えてやったらいいのか未だに分からなかった。確かな確証はないが、あの時点ではまだ答えを出していないはずである。脳みそがストライキを起こしたせいなのか全く記憶がないのだが。
その時のオレの行動、言動をアイツにメールではなく、直接聞かなければならないと思った。思ったが、思ったままなのであった。
「まともに顔なんか見れるかよ……。話すなんて……」
あの時のアイツの傷ついた顔が脳裏に鮮明に蘇った。
男が男に告白する。それは男女間のものとはまた違った覚悟を要するものなのだろう。オレは男を好きなったことなんて一回もないし、男女関係なしに告白すらしたことなど一度もなかった。第一、初恋が幼稚園でそれ以来恋などしていなかった。
想いを伝える……。想像上のことでしかないが、きっとものすごく労力を遣うことで、大変なことなんだろう。世の中には気軽にそれをやってしまう人もいるみたいだけど。
そういえば、どうしてアイツはオレのことを好きだと思って告白したんだ?
あ。……あぁ~あ。
「オレこそ、アイツの話何にも聞いてねーじゃんか……」
明日はちゃんとアイツの話を聞こうかな。状況聴取のついでにでも。
可笑しな話かもしれないが、危なくなったら逃げればいい。
まったく。この世は何が起こるかわからない。
まさかマツハシさんのアドレスを知る前に、過程をぶっ飛ばして彼女の弟のアドレスを知るなんてな。奇想天外にも程があるってもんだ。
ちなみにオレの予想プランは……聞きたくない? まあ、またいつかの機会にでも。遠慮するなって。
こうしてオレは来る明日に向けて心の準備をし、眠りについたのであった。
明日には明日の風が吹くらしいぜ?