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左手ピース

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09.現実=現実




 現実は、現実だった。ほんの少しの空想と希望を混ぜてやってもいいじゃないかと不満を露わにしてみたが、やはり現実は、現実だった。どうともならない。
 それに頭がぼーっとして、上手く機能しない。思考力が鈍っている。不満は頭に浮かぶのに、可笑しいことにその他は全く機能しないのだ。なんて嫌な頭なんだろう。

 そして、現在進行形でオレはマツハシ弟に抱きしめられたままである。5月になり、春が来て暖かくなり、桜が咲いたと言えども、まだ朝だからかほんの少し肌寒い。だが、コイツが抱きしめているおかげで暖かかった。
 いや、そんなことを思っている場合ではない。第一、男に抱きしめられて暖を取るなど逆に、寒気がするものである……はずなのだ。
 困った。本当に、困った。なんだか色々とやられてしまっているようだ。鈴木浩太、16歳にして故障。原因、マツハシ弟……と言ったところであろうか。だが、ここでマツハシさんの名字を出したくないなあ。
 そういえば、マツハシさんはコイツをよろしく発言をしていらしたが、一体どういうつもりなのだろうか。普通に考えてみれば、そう、普通に考えてみれば変だ。変だよな?
 オレには4個下の妹がいるが、もしも妹に「彼女」を紹介されたら……されたら。いや、でも、しかし、マツハシさんのように笑顔で「素敵!」なんて言えない。言えるはずがない。

 霞がかかったような脳内であれこれぐだぐだと考えている内に授業開始5分前を知らせる予鈴が鳴った。
 アイツは名残惜しそうにオレを抱きしめていた腕を解いた。
 いや、そんなに名残惜しそうにされてもねぇ、と内心で呟いているとアイツは「先輩のこと好きっす。ホント、マジで。またメールします」と早口で言い切りベンチから立ち上がった。慌ただしい奴だなあとぼんやり思っていると、座ったままの状態のオレを優しく、包み込むようにまた抱きしめた。そして無言のまま校舎へと駆け出して行った。
ベンチに一人取り残されたオレは、授業にはきちんと出るというアイツの態度に感心し、アイツに抱きしめられてもキスされても嫌悪感を抱かないということに驚いていた。



 そしてオレは一限目の授業をサボった。国語の授業だった。
ベンチにだらしなく座り込んだまま、あぁ、そういやあ、ヤマグチが担当だったなあ、とぼんやり思う。オレ、今までのこと詳細に書き上げるからさ、ここの彼の心情はこうで、ああで、と一個一個オレに解説してくれよ、ヤマグチ。きちんとノートも取るからさ、解説してくれよ。

作品名:左手ピース 作家名:ぼんぼ屋