日向に降る雪
果たして、その後発売されたとあるギャルゲのモブキャラに、早坂という名の人物がいたことを最後に明記しておく。ちなみに苗字のみで名前は無いようだった。モブっぷりが気持ち良いではないか。
そのキャラクターは容姿、性格ともに、私のよく知る男に非常によく似ていた。さらに右手に握る主人公からもらったという設定の懐中時計にも、いやに見覚えがあるが、そこは触れてはならぬ気配がするゆえ、見なかったことにした。
二次元と三次元の次元を越えてまで使える言葉なのかは定かではないが、この早坂と私の心友である早坂とは、きっと他人の空似なのであろう。
空、といえば、今日の空も綺麗に晴れ渡っている。
私は待ち合わせ場所にぼんやりと立ちながら、青い空を見上げていた。
ふと、頬に冷たいものが触れた。
それは、なんと雪であった。
初冬であるにも関わらず雪が舞っているではないか。
太陽の光の下、微弱ながら雪が降っている。
日向に降る雪は幻想的で、私はしばしの間、それに見惚れた。
見惚れること数分、ふと私の視界の隅になんとも可愛らしい生き物が現れた。
無論、それは雪村さんであり、彼女は雪の降る中、くるくると愛らしく舞っているのだ。
彼女はきっと私を悶え殺す気なのだろう。
雪のことなど忘れ、彼女に見惚れたのは仕方のないことだ。
やはり、しばしの間見惚れていたかったのだが、それは叶わない。
むしろ、見惚れるよりも喜ばしい事態が間もなく訪れるのだ。
雪村さんは、私に気付くとひらひらと手を降りながら近づいてくる。
ああ、私は今、幸せの頂にいる。
不意に、私の唇にちらちらと舞っていた雪が触れた。
それはすぐに灼熱のごとく熱くなり、そしてすぐに、程よいぬくもりへと変貌を遂げたのだった。
了。