日向に降る雪
2人で歩くということに少々恥ずかしさもあったのだが、雪村さんと過ごすことで、それなりに女性に耐性もついたらしい。私は天野さんと共に早坂の新しい彼女を購入し、彼の家へと向かった。途中、さほど気まずくなることもなかったはずだ。
「あ、小日向君」
という声をきくまでは、だ。ぎょっとした、というのはいささか表現がおかしいだろうか。声の主はもちろん彼女で、私は一瞬間唖然としてしまった。いや別にやましい気持ちがあるわけではないので、大人しくしていれば良いのだろう。そう言い聞かせながら私は雪村さんへと顔を向け、やぁ、と爽やかに挨拶を交わした。
彼女の視線がちらちらと私の隣に向かうのが分かる。天野さんも興味津々といった風に雪村さんへ視線を送っている。
「えーっと、小日向君、そちらは?」
先手を打ったのは雪村さんだった。私はこほんと咳払いをすると同時に冷静さを取り戻した。
「こちらは、早坂の後輩、天野さんだ」
私の言葉を追って、天野さんが頭を下げる。
「はじめまして、天野さくらです。お噂はうかがっています」
「噂?」
「ええ。小日向先輩にはとっても可愛らしい彼女が――」
余計なことを喋られる前にとっさに口を塞いだ。何やらもごもごと言っているが、それは気にせず、雪村さんへ苦笑いを浮かべてみせた。
「えーっと……と、ところで、こんなところで何をしているの?」
その反応はどう判断すべきなのだろうか。先ほどの天野さんの台詞が耳に届いていないはずがない。
「あまりにも馬鹿ばかし過ぎて説明する気もないのだが、いろいろあったのだ」
しかし、それは今追及すべきことではないのだろう。私はとりあえず話を元の軌道に戻すことにし、天野さんを解放した。彼女はわざとらしくけほけほと言い、それからはぁ、と長い息をはいた。
「つまり、あれだ。いつものごとく、早坂絡みだ」
それを聞いて雪村さんは納得したように頷いた。
「ああ、早坂君絡みで」
その頷きに同調して、天野さんも腕を組んでうんうんと頷く。
「ええ、早坂先輩絡みで」
こうして三者三様の形で首肯されてしまうところに、早坂の早坂たるゆえんがあるのだろう。私たちはそのまま3人で早坂の家へと向かい、彼に彼女と装置を返し終えた。