日向に降る雪
早坂という男
大学生活とは満喫したように錯覚するものの、その実全く満喫などしていない、そんな儚いものである。と思われる人も多いのではなかろうか。かくいう私も多聞に漏れず、それはもう怠惰な4年間を過ごした。さらに、就職活動なる天から降りてきたあみだくじの如く己の運に大きく左右される行動を起こす気など更々なかったため、もう2年ほど大学に居座ることにした。すなわち、私は大学院修士課程の学生になったのである。
かと言って、さほど大きく生活が変わったわけではない。学部生のころに比べると一段と忙しくはなったが、しかし、どこか虚しいことに変わりはない。自分に何が足りないのか、それは痛いほどに理解していたが、頭で理解しているからといって、そう簡単に補えるものでないことくらいさすがに熟知している。
恋とはするものではなく落ちるものなのである。要するに私は元来の生真面目な性格が災いしてか、石橋をも叩いて渡る性分ゆえ、大学の4年のうち一度もどこかに落ちることがなかったのである。
さて、そんな私であるが修士課程として研究生活を始めた矢先、叩いて渡ったはずの石橋ががらがらと崩れ落ちる体験をすることになった。
それが彼女、雪村さんとの出会いであり、そして、私の長きに渡った枯れ果てた生活を一変させることになるのである。