バスルームの楽園
いつもはゆっくりお休みタイムに充てられる古典研究の授業は、ものの見事にクラスメートたちの質問攻撃によって粉砕された。当然、磯谷しぶきのことをあれこれ聞かれても、私自身この美少女転校生のことは殆ど知らないから、何一つまともに答えられず(元から話すの得意じゃないし)、おかげで適当に相槌を打たなくてはならなかった。磯谷しぶきも頷くか首を横に振るかしかしなかったから、クラスメートたちは私という翻訳機を通してこの転校生とコミュニケーションをとろうと試みたようだ。「磯谷さんってどこから来たの?」「すごい可愛いよね」「ねーしぶちゃんって呼んでもいい?」「あ、しずちゃん当てられてるよ!」
しずちゃんとしぶちゃん、似てるな、なんて思いながら私は現代語訳を読み続ける。ああ、今も昔も人間ってめんどくさい。もうさ、要は光源氏がスケコマシっていう話でしょ、あれだ、まゆちゃんが源氏物語の絵巻、三枚に一遍はヤッてた!っていうし。隣をみれば机に突っ伏す磯谷しぶきが目に入った。いいなお前。私も寝たいぜコノヤロウ。