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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|96ページ/140ページ|

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「マユ君も相当なサディストだな。スワン君は浅はかな行動が好きとみえる。全く緊張感が感じられない様子で飛ばしまくっているぞ。失敗したらどうするとかそういう発想は微塵もないようだな」
「ひえーー! 一緒にしないで!」
「錦鯉の兄ちゃんって……作戦通りうまくいったのに酷い言われようだな……いつもそういう役回りか……」
 リンの嘆きをよそに作戦はなおも続く。
「はっはっはっはっは! カリグラ激怒しているな! 眉毛をピクピクさせているぞ! 早速裏付けを取り始めたよ。側近を使ってカルバリンの調査をするようだ。その側近も俺の幻影だけどな。カリグラ馬鹿だなあ。はっはっはっはっは!」
 リストは笑いを堪えることが出来なかった。びっくりするほど思い通りに事が運んでいる。自分の幻影を無理に動かすことなくマシューの口を封じ、カルバリンを手に入れる。ハルの神々しさに加えマユの戦略性。次々にハマスの力を見せつけられたリストは、ハマスの加入により無血同盟が飛躍的に発展していくだろう事を予感せずにはいられなかった。
「あとはスワン君か……」
 ハルとマユの凄さはよく分かった。しかしスワンはいつまでたっても間抜けなままだ。リストにとって、スワンは後の二人に釣り合わない存在のように思えてならなかった。
「リストはスワン君の本当の力を分かってないなあ」
 リストの心中を察したのか、マユは不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
「だったらその本当の力とやらを出し惜しみせずに見せてもらいたいものだ。私達に余裕は微塵もないのだからな」
「そうカリカリしないの。ほら、早くローマの様子を実況しなよ」
「そうだな……カリグラの側近を使って撮らせたカルバリンの映像を見たカリグラがまた激怒しているな。紂王率いる殷の軍勢に制圧されたと解釈したらしい。それもマシューの差し金によってな。マユ君のカードから飛び出した紂王を確認したのが決定打になったようだ。作戦通りだな」
「よし。いい感じだね」
 得意げな表情を浮かべるマユに対して、ハルは不安そうな顔をしながらマユを見つめた。
「マユちゃん……マシューさんはどうなるの? 酷いことにならない?」
「百瓶の刑だそうです。カリグラがそう言っています」
「百瓶?」
「体を百個以上に切り刻んで、それを瓶に詰め込み永久に再生できないようにする処刑法。切り刻まれたままなので、その痛みは計り知れないとか……」
 リストの説明を愕然としながら聞くハル。自分達の計略でマシューがそんな目に遭うことを容易に受け入れることができなかった。
「マユちゃん! 駄目だよ! マシューさんをそんな目に遭わせて私達だけが……」
 ハルだったら必ずそう言うだろう。それもマユの想定内だった。
「大丈夫。そうならないように考えがあるから。ハルは私を信じて見ててよ」
 思い通りに事が運んでいる安心感からマシューの処遇について全く頓着しなかった。リストはハルの思いを受けながら、自分の振るまいが如何に軽率だったかと思わずにはいられなかった。浮かれた心を諫め、心を落ち着かせながら、再度幻影を使ってローマ帝国の動きに目を配った。
「流石姉御だな。敵のマシューのことをあんなにかばって……」
「流石ではありません。誰かを不幸を踏み台にして前に進むのは意味がありません。みんなが幸せになる方法がきっとあるからです。そのために私は頑張りたい……」
 ハルが覚悟を決めたときの凛としたあの瞳。その眼力に皆引き込まれた。ハルの人を救いたいという気持ち。傷つけたくないという気持ちが全て目に宿り、それが眩しいほどのエネルギーとなって皆に降り注いだのである。
「ハル様。この修羅地獄は、罪人同士が傷つけ合い、裏切り合う地獄。それ故に人を信頼することは最も愚かな事だとされます。ましてや他人を気遣う余裕なんてあるはずがない。そう思うのが普通です。なのにハル様は真っ先に人のことを思いやられる。自分達を陥れようとした敵であっても」
「笠木さん。そんなの悲しすぎます。人は一人で生きていけないんです。ちっぽけな私なんかがここまでやってこれたのも、皆さんのおかげなんです。私達を傷つけようとしていた人達も心を込めて話したら分かってくれました。助けてくれました。だから私は考えを変えません!」
「いえ、ハル様。私は考えを変えろなんてこれっぽっちも思っていませんよ。こんな荒んだ地獄だからこそ、ハル様だったらこの地獄でみんなを救ってもらえるんじゃないかと……敵味方関係なく」
 みんなを救う。ハルは確かにそれを願っていた。でも壮大な事だと思っていた。笠木が真面目な顔でそれができると断言した時、ハルはとてもうれしくなった。思わず顔がほころんで周りを見渡すと、同じように微笑み頷く仲間がいた。皆ハルの思いを分かっている。そしてハルだったらそれを叶えることができると思っていた。自分もハルの願いを叶える手伝いをしたい。そんな気持ちが無言の頷きに乗っていった。
「マシューがカリグラの前に着いたぞ。やっぱり百瓶だそうだ」
 顔を曇らせるハル。それを見ながらマユは、
「私を信じてね。ハル」
 と呟きハルをなだめた。
「リスト、カリグラはアルジャーノンに褒美について聞くから、マシューの百瓶を請け負うことを要求してね」
「なるほど、謎が解けたぞ。百瓶を請け負いながらも実際にはそれをしないってことか?」
「その通り。こっそり牢屋にでも入れておけばいいよ」
 それを聞いて安心したハルは、にっこりとマユに微笑んだ。
「マユちゃんありがとう。きっとうまくいくよね?」
「ハル様、うまくいったみたいです。カリグラはアルジャーノンに百瓶の執行を命じました。どうやら執行に立ち会わないみたいです。ただ今マシューを移送して投獄しました」
「よかった……マシューさん、少しの間我慢して下さいね……」
「多分少しの間だと思うよ。どうせカリグラはすぐに釈放するって」
「うん。マユちゃんを信じるよ」
 丁度その時、スワンが任務を終えて帰還した。
「ただいまー今帰ったよ」
「おかえり白鳥君。危なっかしい運転ありがとう」
「折角うまくいったのに早速嫌みかよ……」
「危機感のない行動を君がするからだよ。」
 帰還早々マユとリストの洗礼を受けるスワンだった。しかしスワンはめげずに作戦が成功したことをしみじみと振り返っていた。
「まさかここまでマユの作戦がうまくいくとはな」
 しみじみと語るスワン。その言葉をマユは得意げな表情で見つめた。
「そうでしょー? もっと私を崇めなさいよ」
「マユ君、カルバリンの砦を手中に収めたのはいいが、これからどうするんだ? マシューの口を塞ぐことはできた。だから砦は用済みか?」
「いや、折角だからずっともらっちゃお。でもそのためには覚悟が必要だけどね」
「じゃあ次の一手があるわけだな。覚悟を伴う一手が」
 マユのことだ。中途半端な作戦で終わるはずがないと思ったリストは、この作戦の最終形態が何なのか知りたくてたまらなかった。
「そういうこと。聞きたい?」
「何だよマユ。勿体ぶらずに言えよ」
 スワンの発した一言は皆の思いでもあった。しかしマユはなかなか口を開かない。マユは皆を見渡すと、意を決して口を開いた。
「建国を宣言する」