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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|93ページ/140ページ|

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 それを聞いたマユはニッコリと微笑み「戦車」のカードを取り出すとスワンに手渡した。
「じゃあ頼むよ」
「分かった。じゃあ俺は行くな。笠木さんよろしく」
 そう言うとスワンは席を立ち笠木と一緒に去っていった。
「さてと作戦実行といきますか。リスト頼むよ」
「了解」
 先程とは違い軽く笑みを浮かべながらマユに答えるリスト。この返答を皮切りにカルバリンの砦を手に入れる作戦が実行されようとしていた。
 同刻、作戦の現場、カルバリンの砦も早速事態が動いてきた。
「アルジャーノン、この砦全館に緊急命令を発令する。急ぎ放送設備を準備せよ」
「は!」
 マシューの命令を受けたアルジャーノンは、無表情のまま去っていった。
「ロンよ、命拾いしたな。私は寸前のところでお前を廃棄しようとしていたところだった。役に立たないゴミは早く処分すべきだってね」
 上機嫌のマシューは満面の笑みを浮かべながらロンに語りかけていたが、命拾いしたはずのロンはそれどころじゃなかった。
「今、何が見えるか? ゲリラ共の馬鹿面が見えているか? これから破滅していくのにのんびり構えている馬鹿共の姿が
「あ……見えます! 見えます! その通りです!」
 実際は眼球には布をかけられ、手首は柱に縛られている。しかし本当のことを言ったら、先程の言葉通り、廃棄されるかもしれない。そんな思いから、ロンはつい嘘をついてしまった。
 ロンの主な役目はハル達の居所を突き止めることにあった。それがカルバリンだと判明したことにより、これ以上厳しくロンを使った探索を行う事はなかった。そのため、ロンが嘘をつき続けてもそれがばれることはなかった。
 手柄を目の前にして油断したマシューは、このロンの嘘が大きな失敗として我が身に降りかかるとは、この段階で知る由もなかった。
「そうか! はっはっはっは。その余裕こいた顔がすぐに歪むことになる。早く見たいものだ。絶望に歪む馬鹿面が私の前に跪くのがな。くっくっくっく」
「…………」
 余裕こいていないだろう。ロンはそう思えてならなかった。ハル達の会話を聞くことはできないが、自分の存在を確認して捕獲している。明らかに何をしていたのか分かった上での行動。となるとアジトの場所が漏れたと思うのが自然な思考。マシューに言うことなんてできるはずもないが、ハル達の居場所が漏れたことについての対策を練っているはずだ。ロンはそう思った。
 何も知らずに下卑た笑いを浮かべているマシュー。ロンは、真実を知った後で自分に向けられるであろう憎悪に戦慄した。
 そうこうしているうちに、放送設備を手にしながらアルジャーノンを始めとした数人の兵隊が入ってきた。無言でてきぱき準備を始める兵隊達だったが、マシューは一切目を向けず、変わらぬ笑みを浮かべながらロンを見つめている。
「馬鹿共は何をしているのだ? 無意味に作戦会議でもしているのか?」
「は……は! その通りでございます」
「ロンよ、さっきから、「その通り」という言葉しか発していないが、気の利いた言葉の一つや二つ言えないのか?」
「は……元天使はおどけて踊っていますし、ハルと思われる女は楽器を弾いています。皆、馬鹿な顔をしながらうけれまくっています。伯爵閣下の言われる通り、もうすぐ絶望の淵に落とされるのに滑稽な姿を見せています」
 緊張のあまり息が時々止まりそうになるのを、無理して平静を装いながら話すロン。その額は冷や汗で溢れていた。
「伯爵閣下、準備が整いました」
「ご苦労」
 先程までロンにばかり気を向けていたマシューは、アルジャーノンの言葉でやっと放送機器に目を遣ると、マイクの前に立った。マシューの動きを見てタイミングを合わせるようにアルジャーノンは放送機器を操作していった。
「カルバリン辺境伯、マシュー・ポプキンズの名において、全カルバリン辺境警備隊の諸君に告ぐ。皇帝陛下の勅令にあったハルの居場所が特定された。それは我が領土カルバリンである。我々の手で勅令を達成し、カルバリン領を栄光に導くのだ。その歴史的瞬間を諸君等は目撃するだろう。まずはその第一歩として戦略会議を行う。ナイトの称号をもつ将官は漏れなく謁見の間に今すぐ集まるように。遅れた者は騎士の称号を剥奪するものとする」
 意気揚々と演説をしたマシューは、勢いよくマイクのスイッチを切ると、戦略会議の舞台となる謁見の間へ向かおうとした。すると同時に、一人の兵隊が入ってきてマシューに耳打ちをした。
「伯爵閣下、今しがた皇帝陛下よりローマに急いで来るようにとの伝令が届きました」
「なに? 今すぐにか?」
「はい。今すぐとのことです。何やら非常に急いでいらっしゃるご様子です」
「はあ……目の前にある仕事を優先して遅れて行ったやつが酷い目に遭っているのを見ているからな……」
「伯爵閣下、戦略会議は私、傭兵隊長のアルジャーノンにお任せ下さい。元来伯爵様のお役目はこのカルバリンを治めること。面倒なことは私にお任せ下さい」
 アルジャーノンは、カルバリンの傭兵隊長。つまりカルバリンにおける軍隊の最高責任者だった。だからこそ、常にマシューは自分の側に置いた。
「今回は私が指揮を執ろうと思っていたが仕方ないな。ジョニービルでは、傭兵隊長に任せっきりだったために陛下の逆鱗にふれていたしな」
「いえ、あれは負け戦だったからでしょう。私は負けませんよ。それは伯爵閣下の折り紙付きでしょ?」
「それにしても、皇帝陛下による勅令が達成されようとしているのに、それよりも大事な用事なんだろうかね。皇帝陛下も気まぐれだからな」
「そうでもないと思いますよ。ハル捕獲が間近だという情報が陛下のお耳に入っているやもしれません」
「なるほど。私の知らないところでそれが伝わっていることは十分に考えられる。ローマ帝国のこんな広大な領土をお一人で統治されているお方だ。それぐらいの情報網をもっていても不思議じゃない」
「左様でございます。だからこそ、戦略会議なんぞは私にお任せ下さい」
「そうだな。じゃあアルジャーノン任せたぞ。これより私はローマに向かう。馬車を出せ」
 そう言いながら部屋を出るマシュー。砦の外にはマシューが指示した通り、ローマに行くための馬車が用意されていた。それに乗り込むマシュー。それと同時に馬車が勢いよく動き出した。
 数日後ローマに着いたマシューは、早速城に入り、意気揚々とカリグラの待つ謁見の間へ歩いていった。玉座に座るカリグラ。褒美をもらえるとばかり思っていたマシューだったが、その期待を大きく裏切り、衝撃の光景を目の当たりにすることになった。
 それは、セラミックの直方体の箱。そう、百瓶をしまう薬品庫だった。
「マシューさん。何故これがここにあるのかまだ分かっていないのかい?」
「え? ……誰かを処刑するんで?」
「そう、誰だと思う?」
「私はずっとカルバリンにいましたから……ちょっと……」
「もう分かったるんじゃないの? でも認めたくないとか」
「まさか……」
「そう、あなた」
「どうでしてですか陛下! 私は陛下のためにハルの居場所を……」
「何言っているんだい? そうじゃないだろ? あなたは私に反旗を翻して独立しようとした……そうだよね? アルジャーノンさん」