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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

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 名前を含め、大切な記憶が全て消された春江の目は虚ろで沈み、以前までの凛とした眼差しが全くなくなった。むしろ濁った瞳で俯いていた。
「消えよ。メモリーケーブル」
 と言いながら、椅子から降りると、春江に差されたコードと共に、パソコンや椅子などが消えていった。
 同時に、春江の拘束も解かれ、力なく地面に倒れた。記憶の多くが消されたからであろうか。以前までは二十台半ばの年齢の姿であった春江は、背が縮み、十代まで若返ったように見える。また、服装も、死ぬ直前まで着ていた白いブラウスに黒いロングスカートから、白いワンピースに変わっていた。
 ホセは春江の側まで歩み寄り、その姿を見下ろした。
「城島春江。今この瞬間より、汝の名前は消滅する。汝は既に人ではないのである。汝は虫けらとして地獄の深淵を這いつくばることしか許されない。虫けらに不必要なものは全て排除した。これにより、汝の入獄を許可する」
 地獄門の奥は深い崖になっていた。ホセは空中から槍を出し、それを手にすると、春江を突き刺し、崖の底に放り込んだ。
「ふっ、城島春江……汝は、自分の欲のために罪を犯したのではないな。全ては人を救うため。人を救うために涙を流しながら罪を犯した。本来なら情状を酌量され、その罪は軽減されるのが通例だ……でも……次長カロル様の逆鱗に触れたか……汝も運が悪かった……そう思うほかない……」
 崖の奥を眺めながらホセは呟いた。こうやって春江……いや名もなき少女は地獄の最深層に近い地獄に堕とされた。