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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|85ページ/140ページ|

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「知ってはいるが……そんなものどうだっていいじゃないか。私にとって君の顔に泥が塗られようとなかろうと、全く関係ないことだよ。危機感を募らせているのは君だけだろ? 地獄での利権が失われるからな。強欲な権力者が自らの地位を守るための醜い争いってな」
「だったら、お前も自分の今の立場を守るために何が必要か考えることだ。私が前に対する捜査を止めているんだぞ? 私が手を打たなければ、今頃お前はコキュートスだ。そんなふざけた口を利いて困るのは誰かな?」
「脅し、すかし……君も大変だな。それで、要求は何だ?」
「初めからそんな素直な態度でいればいいのだ。ハルは、今修羅地獄にいる。難攻不落の地獄だから大丈夫だとは思うが、万が一通過した場合……」
「神仙鏡の奪還が次の試練となるか……春江君も短期間にそんなところまで来たのか」
「様々な幸運が重なったに過ぎない。万が一にもそうなった時、お前が採るべき行動は分かるよな?」
「神仙鏡を渡すなということだな? カロル君? 君に頼まれなくても……な?」
「ふっ、お前にとってこの空間を維持するのに神仙鏡はなくてはならない道具だということか? だから渡すことなんてあり得ないって」
 労せずして思惑通りになることを理解したカロルは、顔の緊張を解き、ニッコリした。
「だとしても、これは取引だろ? 私の要求を聞いてくれるよな?」
 また突拍子もない要求を突きつけるのだろうと決めつけていたカロルはにわかに顔を強ばらせた。
「なんだ?」
「春江君のメモリーディスクを譲ってくれないか? どんな人生を送ってきたのか大変興味ある」
「そんなことでいいのか。分かった譲ってやる。私はお前の要求を呑んでやるのだ。お前も私の要求を呑むということだよな?」
 三田は、カロルの言葉に返事をせずに、またフォークとナイフを手に取ると黙々と食事を始めた。目を閉じて恍惚とした表情で音楽を聴いていた。自分を全く無視した行動に気分を害したカロルだったが、取引が成立したものと解釈し、早々に退室していった。
 三田はゆっくり立ち、テーブルに置かれたハルのメモリーディスクを手にとると、
「佐々木君。私の言葉の中に、カロル君に対する忠告を読み取ることができたかね?」
 カロルと入れ違いに入室した佐々木に話しかけた。
「はい、当主。世の中には、身を滅ぼしてでも信念を追い求める者がいることを示唆されました」
「その通り。それは何も春江君に限った事じゃないことに気付いただろうかねぇ。我が身かわいさに自分の計略に乗るはずだと思い込んでいるカロル君は余りにも憐れだね。そんな浅はかな思考がまさに身を滅ぼすと教えてあげようとしたのにな。馬鹿はいつまでたっても馬鹿なんだな」
 そう言いながら佐々木にメモリーディスクを手渡した。
「隣の部屋で待たせている客人を通し給え。ついでにこのディスクを保管すること。春江君のディスクだから丁重にな」
「かしこまりました」
 佐々木はそう言い残すとその部屋から退室し、暫くすると三田の言う客人を連れて戻ってきた。
「当主、バルバトス様をお連れしました」
「佐々木君、入り給え」
 佐々木と一緒に部屋に入ってきたバルバトス。灰色の大きなマントを身に纏い、羽がついた大きな帽子。そして中世貴族を思わせるような気品のある格好をしていた。顔は色黒で深紅の瞳は見つめられると魂を抜かれるかのような威圧感があった。背中にはコウモリのような黒い羽根が生え、同じ羽根が生えている天使とは異にする姿をしていた。
「お初にお目にかかります。私は魔界内閣官房調査室長バルバトスと申します」
 バルバトスが名乗るのと同時に、バルバトスの右側に緑の発光した煙がたちこめ、その中に漢字が変形したような文字が浮かび上がった。まるで天使が名乗りを上げる時のように。
「その魔界の内閣官房のお偉いさんが何の用かな?」
 カロルと対峙するときとは全く違う引き締まった表情でバルバトスを見つめる三田。その緊張がバルバトスにも伝わったのか、言葉を選ぶように口を開いた。
「三田さんは、我々の住処、魔界についてどこまでご存じかな?」
「悪魔が住むところだろ?」
「その通り。あなた達は、天国、煉獄、地獄をまとめて天界と呼んでるね。そして現世空間としての地球かな。同じように我々が住む魔界にも天国、煉獄、地獄がある」
「魔界の天国? なんか一見矛盾しているようにも見えるな」
「それはそっちの勝手な偏見だ。自国が善で他国が悪だって思いたいんじゃないかな? だって悪魔は悪の限りを尽くすって人間に教えているそうじゃないか。私から見れば、天界の天使の方が余程陰険だ。そう思わないか?」
「同感だな。正義の名の下に全てがまかり通るという論理は詭弁というほかない」
「いわば国の違いだよ。天界と魔界とはね。現世だってそうだろ? どんな国だって善人もいれば悪人もいる。国民全員悪だという残念な国はないよね?」
「魔界の偏見を解いたところで本題に入ってもらえないか」
 三田はバルバトスがここに来た意図は今の話題にないと悟り、本題に入ろうとした。
「単刀直入に言おう。魔界に亡命しないか?」
「そちらからの条件は?」
「さすがだな話が早い。条件は、魔界の外務省天界対策局の局長に就いてもらうことだ」
「ほう。魔界は、局長の座を天界人に求めるほど人材不足なのか? しかも犯罪者だぞ?」
「そこは外務省特権でどうにでもなるよ。引き受けた時点でその罪は帳消しになるね。私はね、調査室長として常に有能な人材を探している。三田さんはその中でも群を抜いているということだ。この亜空間の維持なんか、魔界の力を使えばどうにでもなるよ。それにあなたは天使に対して嫌悪感をもっているんだよね? 鼻を明かせるんじゃないかな?」
「君に私の何が分かるというんだ?」
「何人たりとも自分を束縛されるまいという美学だな。そのためには常識では考えられない道を選ぶこともある」
「ほう」
 三田はバルバトスの言葉を聞いて目を輝かせた。
「天使はとかく型にはめたがる。それが正義だと勘違いしてね。悪魔はそんな無意味なことを好まない。国民性とでもいうのかな? あなたの性分にあっていると思うけど」
「その通り」
「それに……」
「それに?」
「天使はあなたを正当に評価できない。あなたの奔放な性格ばかりに囚われて本質を見過ごしている。非常に勿体ない。悪魔はそんな過ちを犯さない」
「一つ聞くが、私が天界対策局の局長に就くとして、対して交渉の相手なろう天使は誰になる?」
「それはウリエルだね。彼は外務省の魔界対策局の局長だからね。局長級会談になったら彼と交渉のテーブルにつくことになる」
 それを聞いた三田はニヤリとした。
「ウリエルか……彼の前に私が立った時、どんな顔をするのか見物だ」
「ところで立ち聞きするつもりはなかったが、あなたはカロルに脅されているのか?」
「ああ、脅しにもなっていないけどな」
「亡命してくれたら、奴の後ろ盾は必要なくなるよね。魔界人のあなたがいるこの場は治外法権となり、天使が自由に立ち入れないようになる。捜査権なんてもってのほか。無理に逮捕しようものなら国際問題で大戦争勃発だ」
「なるほど……それも一興」