小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|82ページ/140ページ|

次のページ前のページ
 

 ジャッジの驚いたような顔を見てカリグラはにっこりとした。その間に作業人のよってスイッチが押された。
――――ウイーーン
 罪人の骨肉に至るまで細かく粉砕され、完全な液体になった。
「これで終わりじゃないんだよ。このままじゃ、時間が経てば再生されるからね」
「というと?」
「これを霧状にして城外に噴射する。するとそれが雲になり拡散する。もう再生は不可能だよ。さあ君やりなさい」
 カリグラに命じられて作業人は次のステップに移るために操作を始めた。
――――シューーープビューー
 ミキサーのような機械に溜まっていた赤い液体が次第に蒸発し、上にある管から出ていった。しばらくすると全くなくなった。
「どうだいジャッジさん。あなたが言う再起不能ってこんなものでいいかい?」
 ジャッジは、百瓶と赤霧の様子を思い出しながら、脳内の映像をハルと重ね合わせた。なかなかお似合いの末路だ。そう考えたジャッジはニヤリとした。
「いいだろう。それだったら満足だ。取引成立と考えていいか?」
「ああ。私も異論ない」
 かくしてジャッジとカリグラの司法取引は成立した。 
 カリグラとジャッジの司法取引は、本人達と数名の側近しか知らないことで秘密裏に行われた。それは、ジャッジ本人が言う通り、機密事項に属するからである。しかし、この秘密もひょんなところから漏れることになった。それは、ジャッジとの交渉に異を唱えた側近からだった。その側近が見た光景と同じものを見ている人物がいたのである。
 それはリストだった。
 その時リストは、カルバリン無血同盟の会議室にいた。
「私の幻影からの情報によると、獄卒長とかいう刑務官とカリグラが司法取引をしたみたいだ」
「なに! 獄卒長だと? もしかして……」
 リンは獄卒長という言葉に大きく反応した。バベルの塔でジャッジにどれほど酷い目にあったのか思い出したからである。
「ジャッジ何とかっていう天使だな」
「そいつは、姉御をつけ狙っている陰険な天使なんだよ!」
 その天使がジャッジだと知ったリンは更に興奮してリストに詰め寄った。
「その天使って私の首をちょんぎって放り投げたやつ?」
「そうだ。変態のねぇちゃんの首をぶった切った奴だ」
 ハルも、ジャッジの事を思い出していた。自分の存在理由をズタズタに切り刻んだ天使。忘却の彼方に置いていきたい程に忌むべき記憶。その張本人なのに憎しみの感情がわかなかった。むしろ可哀想だという感情に支配され、どうしてそう思うのかハル自身理解できなかった。同時に、何か懐かしいような匂いが脳内を駆け巡っていた。
「ふーん。あいつね。というかさ、何でそんな事が分かるわけ?」
 ジャッジとカリグラの奇妙な組み合わせばかりに気がとらわれていて、マユが言うようなもっともな疑問まで皆意識が向かなかった。
「マユ君、いいことに気付いたな。流石サドィストだ」
「リストの頭の中にはサドとマゾの二種類しかないの?」
「当然じゃないか。人間二種類しか存在しない。私と君は同じ匂いがするっていったろ?」
「ひーー! 一緒にしないで!」
 マユには珍しく戸惑った表情でリストに訴えた。
「マユ君、カリグラの側近の一人は私の幻影なのだよ」
 ジャッジとの交渉に苦言を呈した側近はリンの幻影だった。
「リスト! 君の幻影はそこまで入り込んでいるのか!」
 それは、長い時間行動を共にしているはずの笠木すらも知らない事実だった。
「当然。やるからには徹底的に。そんな気概をもたねば潰されるぞ。カリグラと天使が結びついたなら尚更な。事は私達にとって最悪の方向に向かっていると思うが」
 リストの言葉に皆息を呑んだ。
「確かにな……ジャッジは姉御を徹底的に潰すと言っていた……そのジャッジが動いたとなると……」
 リンの呟きに誰も反論できなかった。
 暫く、緊迫した無言の時間が辺りを支配した。
 時を同じくして緊迫した場面はまた他の場所にもあった。それは、ハル達がローマ帝国や殷と最初の戦いが繰り広げられたジョニービル壁文前だった。
 殷の紂王によって全滅したローマ帝国軍の兵士達がやっとのことで再生し、五体満足になった頃だった。
「不甲斐ない……敵を取り逃がした上に全滅とは……」
「傭兵隊長! ゴーレムはいかがされますか?」
「捨て置け! どうせ使いものにならん」
「はい!」
「諸君! 再生は済んだか? これより砦に帰還する」
 ローマ帝国軍は、傭兵隊長の指揮の下、ジョニービル辺境警備隊の本拠地、ジョニービルの砦に帰還しようとした。しかし、砦に着く直前になって、傭兵隊長は明らかな異変に気付いた。砦から煙があがっているからである。
「傭兵隊長! 砦が焼け落ちています」
「何だと!」
 急ぎ馬を走らせ砦に急ぐ傭兵隊長。部下の兵隊達もそれに続いて走っていった。
 砦に着いた傭兵隊長は、目の前の光景に呆然とし、立ち尽くしてしまった。砦が陥落しただけではない。砦の城門の前に、一つの首が晒されていたのだ。
 その首は、脳が取り出されており、死体のように佇んでいた。
「伯爵様……どうして晒し首なんかに……」
 晒されていたのは、ジョニービル辺境伯。つまり、ジョニービルの砦における最高責任者だった。ローマ帝国の中において伯爵の爵位をもらうほどの高官である。晒し首になるような身分ではない。そのことを誰よりも知っている兵士達は、皆愕然とした。どうしてこんなことになったのか、殷による奇襲なのか、様々考えを巡らせたが、その答えはその晒し首の横に御触書として分かりやすく示されていた。
「この者は、辺境伯という地位に胡座をかき、戦を第二傭兵隊長に丸投げした。その結果大敗を喫し我が国に大きな損害を与えた。よってその愚かな脳を没収し今後一切穢れた魂が機能しないよう処するものとする。ローマ帝国皇帝カリグラ」
「敗戦の責任は私にある。どうして伯爵様が咎められねばならんのだ! 常に我々の事を気遣い、勇気と誇りを与えてくれた伯爵さまがどうしてこのように辱めを……カリグラァァァ! 私は貴様に忠誠を誓ってここにいるのではない。伯爵様に忠誠を誓って今日に至る。この恨み……絶対に晴らしてやる。カリグラァァァァ!」
 傭兵隊長の悲痛な叫び声がいつまでも響いていた。
 その叫び声とまるで重なるかのように、刑事裁判局メモリーディスク倉庫でジャッジのメモリーディスクを閲覧している四人の天使も驚きの声をあげていた。
「何だと! これは一体どういうことだ!」
 珍しくダニーが大声をあげた。
「これは……ジャッジ様もこの事実を知っているのだろうか……」
 トロンはカムリーナの顔を見ながら呟いた。ジャッジのハルに対する責め苦を直接見ている二人は目の前のモニターにある事実が信じられないようだった。
「それは……ないと思う。知っていたらあんなことは……できないだろ?」
「そうだよな……だとしたら、残酷なことだ……」
 トロンとカムリーナは顔を見合わせながら、ひどく落胆しながら語り合った。その様子を見ながらダニーは冷静に思考を巡らせていた。
「つまり、ジャッジも利用されたということだよな?」
「あ……」